なぜ中日の大野雄大は“村上封じ“に成功したのか…根尾との注目対決は四球に終わり賛否も
ひとつは、どこで村上を迎えるのかという舞台作りの成功だ。この日、大野は3打席すべてで走者無しの場面で村上を迎えた。立浪監督も「今日に関して言えばランナーがいないところで勝負できたのは大きい」と評価したが、まず村上の前に走者をためず「ソロならOK」という鉄則を守り抜いた。
ヤクルトOBで、楽天、巨人、西武などで参謀を務めた現新潟アルビレックスBC監督の橋上秀樹氏は、こう分析した。
「今年の村上の凄さの理由のひとつに配球の読みの鋭さがあると見ている。ある程度、予測して狙いを絞っているから打ち損じが少なく、ボール球に手を出さない。ただ、どんな投手に対しても、配球を読んで打ちにいっているわけではないように見受けられる。ストレート待ちで、変化球にも内外の揺さぶりにも対応できるレベルの投手には、そこまで絞りきらずに対応で打っている。だが、対応ではさばききれない大野のような一流投手や、絶対にホームランが欲しい、タイムリーが欲しいという状況では、しっかりと狙いを絞ってくる。となると、逆にバッテリーからすると裏をかくことができるのだ」
その「裏をかく」駆け引きの成果が1打席の三振だったという。
「村上の狙いは、左投手の外角の変化球だったと思う。立浪監督が言うように、巨人の大勢から外角の難しいボールを逆方向へと打った55号は、そのボールを読んで逆方向を狙っていた。つまりセオリーでは、この最初の対戦の場面も外角だが、中日バッテリーは裏をかいてインコース、しかも落ちる球を選択したので村上は対応できなかった。第2打席も外、外と来て、ボールが先行。村上は、もうひとつ外と予測していたところに抜けたフォークが高めにきたので思わず反応で手が出た。打者が狙い球を絞るということは、それはイコール意識させるということになる。超一流の大野だからこそできた駆け引きの勝利だったと思う」
互いに超一流だからこそ生まれた高次元での勝負の結果だったわけである。
この日のバンテリンドームを最も沸かせたもうひとつの対決があった。8-0で迎えた9回。立浪監督は、あえて「8点差があったので根尾を投げさせたみたい」と、根尾をマウンドに送り村上との勝負を演出したのである。根尾は、山崎、代打宮本を続けて内野ゴロに打ち取り二死走者無しの一発を打たれても勝敗にほぼ関係のない場面で、村上を迎えた。初球は外角へストレート。ボールになったが、スライダーでひとつストライクを取り、続けて外角へ141キロのストレートがファウルになった。追い込んでからひとつ釣り球を挟んで、ストレート勝負を仕掛けたが、ストライクが入らない。フルカウントとなって勝負球に選んだのは、インコースへのスライダー。投げた瞬間にそれとわかるボール球で歩かせてしまった。
立浪監督も「できれば結果はどうあれ、四球にならなければ良かった」と残念がったが、SNSや、ネット上も「ドキドキの勝負が見られた」という評価と「逃げずに勝負すべきだった」との賛否の声が入り乱れ、“小さな議論”が起きた。
橋上氏は、「捕手の石橋のミットの構えを見た瞬間に、とことんストレート勝負をしないのか?とガッカリした。もう勝敗には関係ない場面で、立浪監督がせっかくの演出をしてくれたのだから、逃げたとは言わないが、真っ向勝負を挑むのがプロだと思う。王さん超えの56号を打たれると、一生、その映像も名前も不名誉な形で残るのかもしれないが、今後の根尾にとっても勝負すべきだったと思う」と主張した。
今日の第二戦は同じく左腕の小笠原が先発。今季は、村上に打率.500、3本塁打と相性が悪い。大野の投球を参考に、再び村上封じに成功するのか、それとも56号のメモリアル弾を許すのか。注目の対決となる。 (文責・RONSPO、スポーツタイムズ通信社)