偶然?奇跡?「涙が出ちゃった」早大卒の元世界王者の岩田翔吉がWBC王座に挑む3月15日は亡くなった“師匠”である総合格闘家の山本KID徳郁さんの誕生日…「特別な日にしたい」
プロボクシングの「U-NEXT BOXING 5」が3月15日に横浜BUNTAIで開催されることが27日、都内ホテルで発表され、豪華なトリプル世界戦が組まれた。元WBO世界ライトフライ級王者でWBC世界同級3位の岩田翔吉(29、帝拳)が同級王者ノックアウト・CPフレッシュマート(35、タイ)に挑み、WBA世界ミニマム級王者の松本流星(27、帝拳)が同級4位高田勇仁(27、ライオンズ)とダイレクトリマッチ。またWBO世界フライ級王者のアンソニー・オラスクアガ(27、米国)は同級11位の飯村樹輝弥(28、角海老宝石)と5度目の防衛戦を行う。注目は4度目の世界戦で王座返り咲きを狙う早大出身の岩田だ。
昨年3月にWBO王座から陥落し「闘争心がなくなる」
偶然とは思えない。
世界戦の決まった3月15日は、9歳の頃から、格闘技のてほどきを受けた“師匠”山本KID徳郁さんの誕生日。世界王者となった時も泣かなかった岩田は「(3月15日に)試合が決まったと聞いた時に涙が出ちゃった。特別な日にしたい」という。
8年前にガンで天国へ旅立った総合格闘家の墓前に「勝ってベルトを持って手を合わせにいきたい」と誓った。
4度目の世界戦チャンスも“師匠”の導きがあったのかもしれない。
昨年3月にWBO世界同級王座の初防衛戦でレオ・サンティアゴ(プエルトリコ)に足を使ったアウトボクシングで翻弄されて判定負け。その後、サンティアゴは、帝拳のジムメイトであるWBA世界同級王者、高見亨介との統一戦も制した。
「去年タイトルを失ってから自分のメンタル的にも色々なことがあったんですけど、今は本当にボクシングに集中することができていてまたこうやって世界戦のチャンスをいだいた。本田会長に本当に感謝しています。その感謝の気持ちを返せるようなスキルアップした試合を見せたい。自分が王者に返り咲き、今までにないようなパフォーマンスを出せると思ってるので、“これだったらサティアゴに勝てるだろう”というような内容を見せる」
この1年は、自分自身と向き合い揺れる気持ちと対峙した。
それはボクサー岩田翔吉のレゾンデートルを探す時間でもあった。
「サンティアゴに負けてどん底というか本当に悔しい思いを経験した。正直、ボクシングを続けていけないんじゃないかと、戦う気持ちを作るのが凄く難しかった時期もあった」
昨年10月にエドウイン・カノ(メキシコ)との再起戦に7回KO勝利して、今回の世界再挑戦切符をつかんだ。
実は、控室でバンテージを巻いている時に「湧き上がってくるものがなかった」と明かす。
「闘争心、戦う気持ち作れなくなった、それでボクシングをやるのはなかなか難しかった」
転機は、田中繊大トレーナーとのコンビだった。
「レジェンドトレーナーの繊大さんは、眠っていた潜在能力を発揮させてくれる指導の仕方をしてくれる」
ボクシングスタイルもガラっと変えた。
「今までは相手を殴りたい気持ちが前に出すぎてボクシングになっていない部分があった。足がまったく動いていなかった、足の出入り、左右の動きを使い、パワーパンチだけじゃない攻撃でペースをつかんで崩して倒す。とにかく足を止めない」
つまりアウトボクシングの要素を多分に取り入れたのだ。
「その繊大さんの練習を試合で出すのが大きなテーマ」
対戦相手のノックアウトは30戦29勝(11KO)1敗の成績を残る35歳のベテランの2階級制覇王者。WBA世界ミニマム級王者時代には16度の防衛に成功している。小野心(ワタナベ)、大平剛(花形)、田中教仁(三迫)と日本人挑戦者もすべて蹴散らしてきた日本人キラー。
パンチはないが、とにかく試合運びがうまく、ポイントのアピールの仕方をよく知っている。ほとんどが国内での防衛戦でホームアドバンテージを味方につけてきた。ムエタイ出身でフィジカルは強い。
山本KID徳郁さんのジムに通い、ムエタイ経験のある岩田は、その時代からノックアウトを知っているという。
「昔から見ていた選手で、日本人選手も何度も跳ね返されている。すごく有名な伝説の選手。ルンピニーでも(ムエタイの)チャンピオンになって、そこからボクシングでも2階級制覇して、タイの言葉で言うと“チャイスー”と言うんですけど、凄く根性があってパンチもあって好戦的に出てくる」
岩田がパワーで押しきれなければ、どうジャッジの支持を得るかの駆け引きが勝敗を分ける可能性もある。岩田が、田中トレーナーと取り組んでいる方向性に間違いはないのかもしれない。
もちろん王者に返り咲けば、サンティアゴとの3団体統一戦でリベンジを果たしたいとの思いはある。
「やりづらい、上手い選手ですが、必ずあの借りは返そうと思っている。しっかりと自分を高めていきたい」
ただ現在WBAには、米国に航空封鎖されるなどベネズエラの政情不安で海外で試合ができずに休養王者となっているカルロス・カニサレスがいて、勝てば、まずカニサレスとの団体内の統一戦を行わねばならない。カニサレスは2024年1月に当時のWBA&WBC世界同級王者の寺地拳四朗(BMB)に挑み0―2判定負けを喫したが、その後、王座決定戦に敗れたペッチマニー・ゴーギャットジム(タイ)にKOでリベンジを果たしてWBCのベルトを獲得している。
岩田は「その試合は凄く待ち望んでいる、そこも踏まえて自分自身を高める練習をしている。まず自分に勝てるかどうか」と足元を見る。
今回の興行には、帝拳からメインのWBA世界バンタム級挑戦者決定戦でノニト・ドネア(フィリピン)と対戦する増田陸、高田との再戦でWBA世界ミニマム級王座の初防衛戦に臨む松本の3人が揃って出場する。来月で30歳になる岩田が最年長。「全勝します」。3人の真ん中に座って囲み取材を受けた岩田は代表して自分に言い聞かせるようにしてそう約束した。

