
「バンタム級は限界」中谷潤人が「非情だが勝つために」勇敢なIBF王者を“病院送り”にしてベルト統一も来年5月に井上尚弥とのスーパーマッチを計画する大橋会長は問題点を指摘
西田の近大時代の師匠で、六島ジムの第1号の世界王者である現近大ボクシング部監督で、元WBA世界スーパーフライ級王者の名城信男氏は、「対中谷用のベストの戦略がはまっていた。インファイトで中谷選手の左や右が当たる距離を作らせず、そこで打ち込んでいた左ボデイは間違いなく効いていたと思う。目の腫れはバッティングなので、たとえストップでも、判定となるので、肩さえ大丈夫なら、十分に勝てる可能性はあった」と見ていた。
だが、中谷は「ボデイ攻撃も想定内。効いたパンチはなかった」と明かし、その2ラウンドのペースダウンの理由を「こちらの攻撃が終わった後の手数を意識していると感じた。第2回目の攻撃が早かった。対策している感覚はあった。だが、ダメージ(ブロー)を当ててている分、そう長くは続かない。打ってはいなし、横に回ってという意識で戦っていた」と説明した。
中谷は非情の壊し屋に徹した。
4ラウンドが始まる前に肩を回していた西田の動きを見逃さなかった。試合後、枝川会長は肩を痛めたのは3ラウンドだと明かしている。
「ダメージの蓄積も感じていた。非情だが、勝つためにその腕を狙いにいった」
5ラウンドも西田にジワジワとプレスをかけられたが、顔面ではなく顎を狙ったワンツーを撃ち抜き、IBF王者の動きが止まると、容赦なく襲いかかった。
それでも西田は、「効いていない」とクビをふって、前に出るが、いよいよ右目が腫れあがり、終了間際に福地レフェリーは、試合を止めてドクターチェックを要求した。オフィシャルは「右目の腫れは偶然のバッティングによるもの」と発表した。
中谷は、その視界のない右目を左のビッグパンチで狙い続けた。6ラウンドに右目がほぼふさがっていた西田はそれでも前に出たが、打ち終わりに中谷の右フックがクリーンヒット。そしてもう西田の肩は限界だった。
中谷は、クリンチで何度か西田をふりほどくようにキャンバスに投げ飛ばした。筆者は右肩を脱臼した一因にその“ラフファイト”も影響していると感じている。だが、これもレフェリーが反則と認めない以上、中学を卒業して、すぐに米国ロスへ単身で飛び、あらゆる国籍のボクサーと拳を交える中で中谷が身につけたしたたかなテクニックである。
今宵の中谷は戦慄のキラーだった。
リングサイドには井上尚弥が座っていた。場内の画面で抜かれたこともあり、中谷は試合前からその存在を知っていたという。リング上のインタビューで中谷は「もうすぐ行くので待ってて下さい」と呼びかけた。
来年5月の東京ドームで計画されているスーパーマッチへ向けて、中谷は「まわりの人の期待感は大きくなっていると感じている。そこはいい傾向」と話をした。物語のスタートとなった3月31日の年間表彰式でモンスターは、「自分も含めて戦う日までお互いがベストを尽くして価値を高めていこう」と中谷に呼びかけた。
「(井上が)そういう発言をされて、お互いそうだと思っている。1戦1戦、上を見過ぎずいいパフォーマンスをすれば、ビッグファイトに期待が大きく集まってくる。今日?1ラウンドからいけた。ひとつのサプライズもあった。いい評価をもらえたらなと思います」
これがリング上のメッセージの意味だ。
井上はコメントをせず会場を去ったが、その後、自身のXに「スーパーバンタム級戦線へようこそ。こんな強い日本人がいたらワクワクしちゃうよな」と投稿した。
大橋会長によると、この日、リングに上がらなかったのは、次戦は中谷戦ではなく、9月14日の名古屋でWBA世界スーパーバンタム級暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との王座統一戦が控えているためだという。