
井上尚弥の「(拓真は那須川天心に)絶対勝てる」の言葉に偽りはないのか…「(井上家で)まとめてくるならかかってこい」と天心は逆襲を宣言して不利説を「常識を変える」
そして「1ラウンドからいきます」と意外な戦術を明かした。
決着はKOか?判定か?の問いには「どっちが見たいですか?」と逆質問。
「どうなるかわからない。当日の運に任せる。そこまで自分をどう高められるか」と、アンサーをしなかったが、囲み取材では「バチっと決まればすぐに終わる。誰もKOを予想していないでしょう」と不敵に言い、パンチ力の「あるなし」問題についても触れた。
「そこで勝負をしているわけじゃない。パワーをつけるために筋トレしようなんて考えはない。すべての状態が整ったときにKO、ダウンは生まれる」
会見で天心は「しっかりと自分の幽霊を見せたい」と謎かけのような発言をした。その後、天心は江戸時代の句に由来する「幽霊の正体見たり枯れ尾花」を紹介し「この意味を解釈していただければ理由はわかるんじゃないかな」とニヤついた。
幽霊だと思っていたものが実は枯れたススキだったというもので、「恐れられていたものの実体が実はなんでもないものである」ことの例え。戦前の予想では、WBA世界同級休養王者の堤が、Youtubeの番組で「拓真の有利」を主張するなど、拓真のキャリアを買い、天心不利説が大半を占めるが、それに対する反骨心を表現しているのだろう。
「常識的には、勝てないんじゃないか、難しいんじゃないか、と言われる。ただの常識で計ってもらいたくはない。常識を変える奴は非常識な奴しかいない」
ちなみに音響の関係で拓真は、「幽霊」が「武勇伝」に聞こえていたそうで、「今初めて知った。それはどういう意味かわからない」と受け流していた。
天心は元WBO世界同級王者のジェイソン・モロニー(豪州)戦では、激しく打ち合う姿を見せたが、そのラウンドのポイントはモロニーに取られていた。激闘の展開になれば、拓真のキャリアが上回る。
天心がスピードとセンスを生かしたアウトボクシングで、拓真をいかに空回りさせ、ラウンドを支配できるかがポイントになるだろう。粟生隆寛トレーナーも筆者に「中身は言えませんが、勝つためのシナリオは出来上がっている」とコメントした。
どちらにも勝利チャンスがある。勝敗予想は難しいが、天心が8戦目で世界王者となれば“大番狂わせ”と世界では報じられることになる。そういうパワーバランスのもとでのビッグマッチである。
天心は、即完敗必至の今回のチケットを手売りする機会を設けたいという。「試合だけではなく自分の生き方を見せていくのがスタンス」。SNSの時代に、直接ファンに気持ちを届けたいのが理由。
「僕が勝った方がボクシング界は面白くなる」の自負がある。
その先に「4つのベルトをまとめ」複数階級を狙う野望もある。
一方の拓真は「もう2敗している。負けでもベルトを失うわけじゃない。 自由にできる。ボクシングに何も怖さがない。この先のことは何も考えていない」と、捨て身の境地。
あと2か月。2人の運命の時計の針が進んでいく。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)