「王座返り咲きより天心への黒星」プロ12年目にして覚醒の予感をさせた井上拓真に兄の尚弥が授けた“天心攻略”の秘策
プロボクシングの元WBA世界バンタム級王者で同級2位の井上拓真(29、大橋)が18日、横浜の大端ジムで同級1位の那須川天心(27、帝拳)とのWBC世界バンタム級王座決定戦(24日、トヨタアリーナ東京)に向けての公開練習を行った。高いレベルを求める真吾トレーナー(54)の要求に応えた最高の仕上がりで、スピード、キレが見違えるほどレベルアップしていた拓真は、「世界王座に返り咲くというより、天心選手にしっかりと勝って初黒星をつける。ここが一番のモチベーション」と豪語。兄でスーパーバンタム級の4団体統一王者、尚弥(32、同)から天心のクセなど秘策を授かったことを明かした。

「長くないボクシング人生をやりきりたい」
井上家がそのプライドをかけて団結した。
公開練習前の会見からシャドー、ミット打ちまでを見守っていたのが兄の尚弥だった。12月27日のサウジでのアラン・ピカソ戦に向けて、同時間帯に練習を行っているため、ジムに来る時間が重なってはいたのだがやはり気になって仕方がないのだろう。
拓真は兄から何か秘策を授かっている写真をSNSに投稿した。
マスボクシングなどをしたわけではないが、「小さい時から相手のクセだったり細かいアドバイスをくれていた」という。
天心戦を受けるかどうか悩んでいた大橋会長に尚弥は「絶対に勝てます。やらせて欲しい」と直訴した。拓真は「絶対に勝てる(という発言)に関して直接、話をしたわけではない」としながらも「変わらず心強い存在」と信頼を寄せている。
兄から授かった秘策の中身はシークレットだが、父の真吾トレーナーも「絶対に勝てる」との確信を得た。
「拓真がプロになって初めてというくらい同じ思い、気持ち、温度差でトレーニングができた。今まで、そういうことはなかったが、しっかりついてきた。最高に仕上がっている。幅の広さ、引き出しを増やした。相手のことより、どれだけ拓真が仕上げることができるか、気持ちをどれだけ上げることができるかが勝負だった。こっちと同じ気持ちになってくれたんで楽しみ」
辛口の真吾トレーナーがここまで褒めるのは珍しい。
判定負けで王座から陥落した昨年10月の堤聖也(角海老宝石)との防衛戦前には油断から練習量が少なくなっていたが、今回は、何年かぶりかに朝のロードワークを再開したことなどを明かした。
「バイク(トレ)でも、ペースが落ちたら上がってこない。あきらめちゃう。でも、平行線から最後まで上げたし、短い距離のダッシュなんかも根を上げずに最後までやった。(スパーでも)ハイペースを持続させてできた。これまでは自分でリミッターを付けちゃっていたが、全部のリミッターを外した。みていて気持ちがいい。ストレスもなかった。最高だった」
世界王者になっているが、兄と比べられると、ある意味、未完の大器だった拓真のプロ12年目にしての覚醒である。
その父の言葉にウソはなかった。
公開練習は、シャドー、ミット打ちを1ラウンドずつ行っただけだったが、その動きは見違えるものだった。一発一発のパンチのキレ、スピード、なによりコンビネーションのスピードが違っていた。バランスがよく、パンチの軌道に無駄なブレもない。膝上の筋肉の盛り上がりが“戦う足”が出来上がっていることを示していた。リミッターを解除したトレーニングの成果だろう。

