
「頑丈で動かないが気持ちの強い選手じゃない」井上尚弥が迎え討つ最強挑戦者と日本でただ一人戦った元世界王者が語る”怖さ”と”弱点”…「やられるパターンは想像できない」
プロボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(32、大橋)とWBA世界同級暫定王者、ムロジョン・アフマダリエフ(30、ウズベキスタン)との決戦(9月14日・名古屋IGアリーナ)が近づいている。2021年4月にアフマダリエフと王座統一戦で戦い、5回TKO負けをしている元IBF世界同級王者の岩佐亮佑氏(35)に最強挑戦者の長所と短所、そして勝敗予想を聞いた。

「打ち込んできたときのパンチは堅くて重い」
アフマダリエフとただ一人拳を交えたことのある日本人元世界王者がいる。
2年前に井上のスパーリングパートナーだったジャフェスリー・ラミド(米国)に判定で敗れ、現役引退した元IBF世界スーパーバンタム級王者の岩佐氏だ。現在はニックネームだった「Eagle Eye(イーグルアイ)」からとった「EGE」という会社を立ち上げて、高級車の輸送やロードサービスなどの事業を手掛けている。
岩佐氏は、2017年にIBF世界同級王者だった小國以載(角海老宝石)に挑み6回TKOで王座を奪い、2018年にTJ・ドヘニー(アイルランド)に判定負けを喫してベルトを失うも、そこから再起して、今回、井上がスパーリングパートナーとして招聘した元WBA&IBF世界同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)と暫定王座決定戦を戦い、11回TKO勝利で暫定王座を奪った。
当時、IBFの正規王者がアフマダリエフでWBAの王座も保持する統一王者だった。IBFが指令する王座統一戦として2021年4月に敵地のウズベキスタンに乗り込んだが、5回TKO負けとなった。
ダウンシーンはなく、深刻なダメージブローを打たれたわけではなかったが、連打を浴びて手が止まったタイミングでレフェリーに止められた不可解な結末。
岩佐氏はリング上で苦笑いを浮かべていた。
「5ラウンドにカウンターのアッパーを一発浴びたけど、クリーンヒットはその一発だけ。でも“ど”アウエーだったんだよね。ここがウズベキスタンだってこと忘れていた!(笑)というのが、あの苦笑いだったんですよ。攻められたときにも止まらず、もっとアピールすべきだった。それまでも何試合か海外でやっていたけど、これが日本でずっとやっていた人間の弱いところです。ちゃんとやるレフェリングが当たり前と思っていた」
あのまま試合が続いていたら?と聞くと「作戦としては後半勝負だった。ムロジョンは後半にスタミナが落ちるんですよ。ポイント勝負に持ち込めたと思う」とプライドをのぞかせた。
アフマダリエフは、岩佐氏と対戦する前にダニエル・ローマン(米国)から2-1判定で2本のベルトを奪っているが「前半から2人ともいって打ち合いになり、後半は疲れて逃げ回ることが多かった」ためこの作戦を立てたという。
井上はアフマダリエフを過去最強の挑戦者と評価している。
岩佐氏も33戦のキャリアの中で「一番強かった。総合力でね」という。
「タパレスよりも全然ムロジョンが上。技術はラミドが上手くて歯が立たなかったが、総合的にはムロジョン」
名古屋決戦の勝敗予想を様々な元世界王者や現役ボクサーがYoutubeなどで発信しているが、最もその言葉に説得力のある岩佐氏に結論から先に聞く。
井上はアフマダリエフに勝てますか?
「井上選手がやられるパターンは想像できない。昔に井上選手ともスパーをやり、ムロジョンと戦った人間の感覚としてね。井上選手がパワー、スピードだけでなく、体力勝負でも強いと思う。ムロジョンには粗さがあるし、井上選手にはああいう粗いタイプに対応できる凄い技術がある。ムロジョンはこれまで井上選手のようなガンガンくる超一流とやったことがないし、試されていませんよ。普通に勝つのは井上選手」