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ミドル級東軍代表の赤井英五郎は壮絶なファイトを見せたがTKO負け(写真・山口裕朗)
ミドル級東軍代表の赤井英五郎は壮絶なファイトを見せたがTKO負け(写真・山口裕朗)

なぜ“浪速のロッキージュニア”赤井英五郎の親子2代の新人王獲得の悲願は夢と散ったのか…壮絶なダウン応酬の末に3回TKO負け

 試合前にサウスポー対策をアドバイスした。
 左足を相手の右足の外に置き、左ストレートを打たれなないように体の位置をずらすことと「右のリードをたくさん打て」と伝えた。父は「ダブルジャブ!「トリプルジャブ!」と叫んでいたが、そのサウスポー対策ができていなかった。
 だが、赤井は2ラウンドに入るとガラっと戦法を変えた。両方のグローブで顎を固め、上体を大きく揺らしながら、被弾覚悟でグイグイと前へ出た。ピーガブースタイル。あのマイク・タイソンが好んで使ったスタイルだ。
「相手の距離になっていたので、手を前に出して防ごうとしたが、案外、ピーカブーをした方がやりにくいだろうなと。ダウンをとれたが、これくらいのパンチ力なら手を出すより、頭を振って近づいた方がいいなと思った。でもビーカーブは練習をしてない。即興でやった」
 準備してきた戦法でもトレーニングを重ねたスタイルでもない。大好きなタイソンの映像を見ているうちにイメージのあったピーカブーを即興でできるのが、浪速のロッキーの遺伝子なのか。左から強引に中に入り、至近距離から右のショートが顎をとらえた、冨永がダウン。ジャストミートはしてない中途半端な一撃で相手が倒れた。逆襲の一撃にホールがどっと沸く。だが、仕留めきることができず、ポイントを五分に戻したことで何かが狂った。
「これくらいのパンチ力で倒れるなら、もっと当てにいかなきゃと。そこから狙いすぎた。焦ったというか、欲張ったのかも」
 3ラウンドも同じ戦法で挑んだが一発を狙いすぎ突進力も手数も減ってしまっていた。父が危惧したようにまた冨永の正面に立ち左ストレートの標的となった。
「もう最後だったんで…終わっちゃったんだと」
 ストップされた瞬間の気持ちを赤井が吐露した。
 これが3度目の新人王の挑戦だった。これ以上、名門の帝拳ジムに無理は言えない。負ければ引退する覚悟でリングに上がっていた。
「ケジメというか、結果を残さなきゃいけない世界。ここでできなかったら、綺麗さっぱり辞めなきゃいけないという覚悟で試合に挑んだ」
 父の英和さんは、息子に「まだまだ可能性を持っている。もっともっと上へ行けると思うが、今はゆっくり休め。先のことは、じっくり、ゆっくり後から考えればいい。今は、こうして欲しい、ああして欲しいはない。本人がしたいことするのが一番いいこと」というメッセージを残した。
 控室で、その言葉をメディアから伝え聞いた赤井は慎重に言葉を選んだ。
「僕だけの判断では決められない。結果が必要だった。皆さんが、僕のために時間を費やしてくれて、この結果になった。負けたのは初めてじゃない。2回頭を下げて、この大会に挑んだことを考えると気持ちが難しい。どの面を下げて頭を下げるか…難しいですね」
 気持ちが揺れているのがわかった。負ければ引退のつもりで挑んだ最後の新人王だったが、悔しさも、そして、進化の手ごたえもあるのだろう。
 29歳。世界を狙えるレベルにはない。だが、赤井自身は、そこへのこだわりはない。そのファイトで感動を届けるのは、タイトルだけがすべてじゃない。父はボクシングをやりたくてもやれない無念を胸に俳優に転向して成功した。その人生を一番近くで知る息子は、どんな決断を下すのだろう。
 (文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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