
なぜ36歳の井岡一翔はダウンを奪い、試合後にインタビュー打ち切りの寒気を与えた王者にリベンジを果たせなかったのか…「引退する気持ちはない」現役続行を宣言した理由とは?
前戦で人目をはばからず悔し涙を流した井岡は泣かなかった。
「結果は悔しいが戦ったことに対して涙を流すことではない。僕としてはできることはやった」
だが、リングサイドを1周して、応援してくれている人の悔しい顔、泣いている顔を見たとき「僕がチャンピオンベルトを持っていれば笑顔になっているのに…と泣いてしまった」という。
5歳の長男には「倒したのに何で負けたの?」と声かけられ、試合3日前に「これが最後になるかもしれないから」と異例のSNSライブを一緒にやった妻の恵美さんは「お疲れさま」という言葉をかけてくれた。
「妻は悔しそうな姿は僕に見せない。気持ちとして寄り添ってくれる」
36歳。気になる去就については、ごまかすことはせずハッキリと明言した。
「結果として負けて、年齢も36になって、もう引退かなという気持ちには……別にないですね。ここまででいいか、これで引退しますと、みなさんの前で言える感情ではない」
一瞬の「ため」に報道陣から思わず笑いが起きたほど。それほど井岡の決意に迷いはなかった。
「1年くらいかけて、この試合を実現し、この試合ができることの幸せをふつふつと噛みしめながら、ウオーミングアップ、この試合に向けてのトレーニングを1日、1日、やってきた。ボクシング人生を楽しめたし、自分がやるべきことをやった。涙を流すこともなくやり切った思いはあるが、果たしてボクシング人生をやりきって、ここで引退します、という気持ちではない。限界は感じていない。結果は出なかったが、満足と言えばおかしいが、気持ちは晴れている」
井岡の持論は「求められる限りリングに立ち続けたい」というもの。志成ジムは、井岡の意思を最大に尊重する考えで、スポンサーと共に再起戦の興行を実現するための重要なカギを握るABEMAエグゼクティブプロデューサーの北野雄司氏も、「今日の試合を見て井岡さんの試合をもう一度見たくないと思うファンの方々がいるでしょうか?」とサポートする考えを示した。
だが、再起の道は簡単ではない。選択肢は3つだ。ひとつはマルティネスとの3度目の再戦。そして二つ目は、スーパーフライ級でWBA以外の3つのベルトを狙うこと、そして3つ目は1つ上のバンタム級で日本人初の5階級制覇を目指すこと。
井岡はマルティネスとのラバーマッチに関しては「僕たちだけの思いで実現することではない」と、実現が難しいことを口にしながらも肯定も否定もしなかった。
ただマルティネスは、暫定王者との指名試合が義務づけられており、本人は試合後に「全部のベルトを統一したい」と明かすなど、7月に行われるWBC世界同級王者ジェシー“バム”ロドリゲス(米国)とWBO世界同級王者プメレレ・カフ(南アフリカ)の統一戦の勝者との3団体統一戦を目標に掲げている。