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井上尚弥とフルトンは3制止も振り払って0秒睨み合った(写真・山口裕朗)
井上尚弥とフルトンは3制止も振り払って0秒睨み合った(写真・山口裕朗)

「ああやっちゃった!」井上尚弥の“地雷”を踏んだフルトン…怒りを爆発力と冷静な判断力に変える“モンスター”が新たな歴史を

 プロボクシングのWBC&WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ(25日・有明アリーナ)の前日計量及びルールミーティングが24日、横浜市内で行われ、王者のスティーブン・フルトン(29、米国)が55.3キロ、挑戦者で元バンタム級世界4団体統一王者の井上尚弥(30、大橋)が55.2キロで一発パスした。フェイスオフでは30秒にわたって睨み合いが続き井上は「腹が立った。上から目線で来るなら、上等だよ!」と激怒した。滅多に感情をあらわにすることのない井上は、過去に2度、試合前に激怒したことがあるが、いずれも衝撃的なKO劇で終わっている。またバンテージ問題については、大橋秀行会長(58)が大人の対応で譲歩。フルトン陣営の要求をのみ、肌に直接にテーピングを巻かずガーゼを一枚先に巻くことで決着した。無事にゴングを迎えることになったが、モンスターを怒らせてしまったフルトンは無事ではすまなさそうだ。

 一触即発の緊迫のフェイスオフ

 

 一触即発の緊迫感が会場を包む。計量後に壇上で行われた恒例のフェイスオフ。
 互いに上半身裸のまま至近距離で睨み合う。10秒、15秒、20秒を過ぎてもフルトンも井上も目をそらそうとしない。不穏な空気を察知したJBCの安河内剛本部事務局長が22秒過ぎに右手を差し出して間に入ってストップさせようとしたが、逆に2人は距離をつめ、さらに数センチまで、顔と顔を寄せ、眼光鋭く睨み合った。安河内氏がフルトンの肩を両手で抱き、引き離すまで約30秒が経過していた。フルトンは最後まで表情を変えなかったが、井上はニヤっと笑った。
「いやあ、燃えてきましたね。腹立ったんで」
――どこに?
「顔。なんかその。視線の送り方ってあるでしょ?上から来てんな、上等だよ、と」
 約5センチ身長の高いフルトンが送ってきた目線の奥に、井上はリスペクトの欠如を感じた。
「(自分は)そんなに表情に出す方じゃないけど。メンタルも良く仕上がっている。いい試合になりそう」
 一方のフルトンは、「怒りのエナジーは感じたが、オレは落ち着いていた」と、平静を装った。フェザー級への転級が決まっていただけに減量が心配されたが、この日の朝にはすでにアンダーだったという。
「自信はある。どこ?」
 フルトンは頭を指さして「インテリジェンスだ」と言い、「実力の違いを見せてやるよ」とうそぶいた。
 フルトンはとんでもない地雷を踏んだことに気がついていなかった。
 滅多なことでゴング前に感情をむき出しにするようなことのない井上だが、過去に2度だけ激怒したことがあり、いずれも怒らせた相手は悲惨な末路を迎えた。
 1度目は、バンタム級への初挑戦となった2018年5月のジェイミー・マクドネル(英国)とのWBA世界バンタム級タイトルマッチ。減量の厳しいマクドネルは、当日の水抜きが難航し、計量の定刻を守れず1時間も遅刻したのだ。フェイスオフで井上は睨みをきかし、「ふざけてますよね。謝りの言葉ひとつない。腹が立つ。明日ぶつけますよ」と激怒。その言葉通りにわずか112秒TKOに葬った。
 2度目は2019年5月に英グラスゴーで行われたWBSS準決勝となるIBF世界バンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)戦。父の真吾トレーナーが公開練習でロドリゲスの動きを動画撮影しようとしたところ、相手のトレーナーに小突かれるなどのいざこざがあった。激怒した井上は、この時も10秒以上の睨み合いを続け、試合は冷静に2ラウンドに3度のダウンを奪い、最後はボディで戦意を喪失させた。
 マクドネル戦では、怒りのあまり攻撃がラフになったが、ロドリゲス戦では、感情をコントロールして冷静にカウンターを決めた。
――怒った井上尚弥は手がつけられないという印象がある。
「打ち合ってくれれば爆発的なものを出せる。でも明日は技術戦。その感情をおさえて頭を使って戦いたい」

 

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