
新星現る?!なぜ21歳の栁田大輝がセイコーGGPで世陸金メダルのコールマンを振り切って優勝の“金星”をあげることができたのか…「まだ80点。100点のレースなら10秒を切れる」
陸上のセイコー・ゴールデングランプリが18日、東京の国立競技場で行われ、男子100メートルでは、昨年のパリ五輪男子400メートルリレー日本代表の栁田大輝(21、東洋大)が、10秒06(追い風1・1メートル)の好記録で優勝した。2019年世界陸上金メダリストで9秒76が自己ベストのクリスチャン・コールマン(29、米国)らを抑えて連覇を達成した。なぜ栁田は海外勢に勝てたのか。そして彼の今後の可能性は?
追い風参考で出していた9秒台
目玉種目である男子100mで日本の若武者が躍動した。21歳の栁田だ。
予選は2組で10秒20(+0.5)の3着。予選通過タイムは〝最下位〟だったが、決勝で〝真の実力〟を発揮する。
日本のエース、サニブラン・アブデル・ハキーム(東レ)がウォームアップ中に「足の違和感」が出たために欠場したレース。栁田は強力な海外勢を相手に互角以上の戦いを見せたのだ。
5レーンに2019年のドーハ世界陸上金メダリストで世界歴代6位タイの9秒76を持つクリスチャン・コールマン(米国)、4レーンに9秒93の自己ベストを持つ19歳のクリスチャン・ミラー(米国)。1レーンの栁田は「60mで決着をつける」とスタートに全集中していた。
そして出走した8人のなかで最速のリアクションタイムで飛び出すと、スタートダッシュを武器とするコールマンの前に出る。そのままトップを疾走して、真っ先にゴールへ駆け込んだ。
優勝タイムは10秒06(+1.1)。9月に開催される東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)には届かなかったが、米国人スプリンターに競り勝ち、連覇を果たした。2位はミラーで10秒08、3位はコールマンで10秒11。他の日本勢では井上直紀(早大)が10秒16で4位、桐生祥秀(日本生命)が10秒16で5位、灰玉平侑吾(順大)が10秒21で7位、守祐陽(大東大)が10秒24で8位だった。
では、栁田はなぜ大金星を挙げることができたのか。
メンタル面でいうと、超強力なライバルがいるなかでも自分の走りに集中できたことが大きい。「(レース展開は)全然わかってないんですけど、どんな感じだったんですか?」と記者に逆質問するくらい周囲の情報をシャットアウトしていたのだ。栁田は与えられたレーンをポジティブにとらえていた。
「よくも悪くも左側に人がいなかった。周囲を気にせずに走れたのが良かったのかなと思います」
コールマンがど真ん中の5レーン、ミラーが4レーン。一方の栁田は左端の1レーンで、ふたりを強く意識することなく、100mを駆け抜けた。
さらにスタートもバッチリ決まった。栁田は決勝になるとスイッチが入る選手。スタートのリアクションタイムは予選の0.152秒から決勝では0.114秒まで短縮している。
「予選はスタートがもたついてしまったんですけど、決勝は反応も良くて、ちゃんと飛び出せたかなと思います。そこが今の僕の生命線になってくる部分。スタートさえうまく切られたら、最後まで転がるように走るかなと思っていたので、その通りになりましたね」
テクニカル面では1週間前の〝9秒台〟が大きかったようだ。栁田は関東インカレの男子1部100m決勝で追い風参考ながら9秒95(+4.5)をマーク。その〝感触〟が残っていた。
「関東インカレはスタートから風に押してもらって、いいスピード感でスタートを切る経験ができたんです。その後は疲労を抜く感じで、そんなに練習はやれていなかったんですけど、前日練習もいい飛び出しができていました。今日も頭の片隅に9秒台で走ったときの感じを思い浮かべながら走ったりしたので、先週のレースがいいピースになったのかなと思います」
レース後は声を弾ませた栁田だが、満足はしていない。