
「バンタム級は限界」中谷潤人が「非情だが勝つために」勇敢なIBF王者を“病院送り”にしてベルト統一も来年5月に井上尚弥とのスーパーマッチを計画する大橋会長は問題点を指摘
大橋会長は中谷の異変を感じ取っていた。
「中谷選手は減量がきついね。バンタム級はもう限界じゃないか。パンチはあるが、スピードがないように見えた。西田選手は、よく研究していて、大きいパンチに対してうまく戦った」
だが、中谷はスピードがないように見えたのは戦略の影響だと言う。
「顔に当てていくにはスピードが必要になる。だが腕とかアバラとか、体に思い切り強く当てていくと、多少遅くなる」
西田に攻め込まれた左のボディ、そして3、4ラウンドに被弾した左ストレート。バンタム級に転級して、これが5戦目で5連続KOで仕留めてはいるが、中谷がここまで被弾したシーンを見るのも初めてだった。
大橋会長に「あれがパンチのある井上尚弥の一撃なら中谷は倒れていませんか?」と問いかけると、“チーム井上”のリーダーはそれには返答せず、「ただ中谷選手は、スーパーバンタム級に上げてくるともっと怖い。ス―パーバンタム級、フェザー級が適正なんだろうね」と返した、
減量苦のあった時代の井上が、本来持てるパフォーマンスを出せていなかったことを知る大橋会長だけに、この日の中谷が来年5月に東京ドームに現れる中谷とは別人だとの考えがある。
中谷はリング上で「新たな未来が開けた」と宣言した。だが、その後の会見では、すぐに2つのベルトを返上することは明言しなかった。
「いろんな選択肢が増える。階級を上げることも想定しています。バンタムは他にもチャンプがいてそこも含めてどういうチョイスができるか」
WBO王者の武居由樹(大橋)とWBAの休養王者の堤聖也(角海老宝石)がゲストとして招かれていた。3つ目のベルトへの興味も示したが、WBAは正規王者に昇格したアントニオ・バルガス(米国)が7月に横浜で比嘉大吾(志成)の挑戦を受け、その勝者と堤が11月にも王座統一戦を行い、武居は9月14日に同級1位のクリスチャン・メディナ(メキシコ)との指名試合が控えているため、物理的に3団体統一戦は難しい。そう遠くない段階で2つのベルトの返上が発表されると見られる。
5月4日に米ラスベガスでモンスターが逆転の8回TKO勝利で世界に存在感を示して、その約1か月後にビッグバンが、無敗のIBF王者をぶっ壊した。
大橋会長がつぶらな目を輝かせた。
「武居と天心。中谷と井上。日本のボクシング界の明るい未来にワクワクするね」
最強の2人の物語は、互いに最高の形でその1ページ目をめくった。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)