
なぜ西武はセ首位の阪神に3連勝できたのか…8回一死満塁の大ピンチに佐藤輝明を牽制で刺したサインプレーの裏舞台と甲子園スター山田陽翔の覚醒
実は長谷川はこの試合から、MLBを席巻した“魚雷バット”を手にしていた。
「昨日届いて、今日から使い始めました。それまで自分が使っていたバットより1センチほど長いので、自分はすべての打席で短く持っていましたけど、その分だけさらに短く持ちました。そのなかでボールに当てにいくのではなく、コンパクトにしっかりと振る、ということだけを意識していました」
阪神の先発右腕、ジョン・デュプランティエ(30)が1-1から投じた3球目、内角低めの138kmのスライダーを完璧にミート。鋭い打球は前進守備の三遊間を破り、山村を迎え入れるタイムリーとなった。
長谷川は4回にも魚雷バットで確実に送りバントを成功させる。続く平沼翔太(27)の左前タイムリーで3点目が入り、レフトの森下のエラーで三塁へ進んだ平沼を、1番の西川愛也(26)が右前タイムリーで迎え入れた。
2020年の育成ドラフト2位で敦賀気比高から入団して5年目。2022年7月に支配下登録された長谷川は今季、4番を除くすべての打順で起用されながら、ライトでの守備では貢献できても、打率がなかなか上がらずに試行錯誤していた。
迎えた4月29日の楽天戦で転機が訪れた。
ベテランの炭谷銀仁朗(37)から勧められた魚雷バットを借りた長谷川は、第3打席と第4打席で左腕・古謝樹(23)から連続ヒットを放つ。このときの感触が忘れられず、ついには自ら魚雷バットを発注した。長谷川はさらにこう続けた。
「あのときは詰まる打球が多かったので、銀二朗さんから『これを使ってみたらどうだ』と言われて。それがきっかけになりました」
選手個々が自らの役割に徹した勝利。西口文也監督(52)は投手陣にまず目を細めた。
「失点したとしても最少で切り抜けられたところが、タイガース戦の3連勝につながったと思う。今日は先にしんどい場面で甲斐野を使ったので、その後(の継投)があの順番になった。山田もよくゼロで帰ってきましたよね。(けん制は)本当にいいところで使ってくれて、よくアウトにした。一発で仕留めないと意味がないのでね」
さらに勝ち越し打を放った長谷川に「ずっと我慢しているので」とこう言及した。
「そろそろ頑張ってもらわないと。最近は本当にいいところで打ってくれているので、徐々に、徐々にではありますけど、よくなってきているんじゃないかなと」
敵地で広島に3連敗を喫するなど、4連敗で迎えた苦境で、12球団で唯一、勝率が6割を超えていた阪神相手に3タテを達成した。息を吹き返した西武は、交流戦では昨季を上回る5勝目をマーク。パ・リーグでも首位の日本ハムに次ぐ2位に浮上した。
(文責・藤江直人/スポーツライター)