
欠けていた論点…相次ぐリング事故を受けて那須川天心が訴えた「ボクシングを考えている選手で一度話したい」の“緊急格闘家ミーティング”開催プランは意義のある重要な提言だ
プロボクシングを統括するJBCは、関係各位に働きかけて、これまで12回戦で開催されていたOPBF東洋太平洋及びWBOアジアパシフィックのラウンド数を10回戦に短縮することを決め、12日には、全国のジムの会長らで構成されている親睦団体である日本プロボクシング協会との合同で緊急対策委員会を開いた。さらに協会側は20日に緊急理事会を開き、JBCの「KO、TKO負けした選手は90日間、試合出場はできない」というルールの厳守を決めた。
これまでは「CT検査などを受けた場合に特別に60日間でも試合出場が可能」という協会の内規があったがそれを廃止した。著しいダメージが認められる場合にKO負けではなくとも90日ルールを適用するようにJBCにルール改正を要望するという。また各ジムのトレーナー、スタッフを集めて医事講習会を開き、リング事故につながるダメージが蓄積すると考えられているスパーリング実施における注意事項などを指導していくことも決まった。
過度な水抜き減量に歯止めをかけるため、計量時に体の水分量をチェックするハイドレーションテストの導入に関してもJBCと協会は前向きに歩調を合わせた。
19日にはこれまで水と油だったJBCとアマチュアを統括する日本ボクシング連盟による合同医事委員会が開催された。情報、意見交換の中で、事故が起きた場合に敏速な病院への搬送、処置を行うための「病院ネットワーク」の構築など、アマ側が実行している対応策を指南されるなどした。また「早めに止める」レフェリングの改善の必要も提言された。
だが一方でJBCが提案した当日の体重が計量時から10%以上だった場合の強制転級や、事前計量を日本タイトル戦以外にも適用するプラン、救急車の購入などについては「待った」がかかった。突っ込んだ再発防止策はまだ何も決まっていない。
協会側が選手の意見を吸い上げているが、天心が言うように肝心のボクサー目線での再発防止策の議論は欠けている部分だろう。
過度な水抜き減量や、スパーリングを含めたジムの管理、攻撃スキルがアップしている傾向などが事故の遠因のひとつとして問題視されているだけにボクサーを集めてのミーティングを開催して選手側の意見を再発防止策へ反映させることの意義は大きい。
実際、WBC&IBF世界バンタム級王者の中谷潤人は、メディアを通じて「MRI検査の定期導入」を訴えたが、試合前後のMRI検査の導入が検討されている。天心は非常に的を射た提案をした。
プロ野球やサッカー界とは違い、ボクシング界には選手会のようなものが存在しないため、誰がどう声をかけてどう人を集めるかは簡単ではない。だが、誰もやらないのであれば、まだボクシング転向3年で世界王者にもなっていないプロ7戦の27歳の天心がリードしても誰も文句などは言わない。掛け声だけで終わらせることなく早急に実行へ移すべきだ。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)