
アフマダリエフは会見拒否…なぜ井上尚弥は「倒したくても我慢」を貫きコンプリートな判定勝利で1万6000人ファンを魅了したのか…知られざる苦悩と葛藤…1キロ軽かったモンスター
中盤からはパンチを見切り、距離を完全に支配した。アフマダリエフの右目下は腫れてきていた。
「自分の感覚的には、中盤以降はもう(ポイントを)取られていないというのを確信しながらやっていた。1回がどうかなというぐらいの感覚。あとは全部取っててもおかしくないなというのは、なんとなく思いながらやっていた」
ポイントを積み重ねた手応えはあった。蝶のように舞うが、最後まで蜂のような一刺しだけはしない。
「100%インパクトに乗るパンチはもらってはいない。それほど(パンチ力は)感じてはいなかったが、本当にインパクト的に100%というところでもらえばやはりパンチのある選手だなというのは感じたんでそこだけ気をつけていた」
最終ラウンドに右フックを被弾した。しかし最後まで気を抜かなかった。
判定は118―110が2人、117―111が1人の3-0判定勝利。2人が10、12ラウンド。そしてもう一人は4、10、12ラウンドだけアフマダリエフを支持していた。
リング上で井上がIGアリーナを埋めた1万6000人のファンにむかって吠えた。
「アウトボクシングもいけるでしょ!」
そしてこう2度、耳に手をやり、こう問いかけた。
「誰が衰えているって?」
1ラウンドから12ラウンドまで、ウズベキスタン人のMJコールに対抗するように何度もナオヤコールが響き渡った。
「1ラウンド目のナオヤコールが凄く聞こえてパワーになった」
ダウンシーンも、アフマダリエフをふらふらにしたシーンもなかったが、スリリングな緊迫と、ほぼクリーンヒットを浴びないモンスターの神業スキルにファンは酔いしれていた。井上の自己採点は「100点」だった。
トップランク社の総師であるボブ・アラムCEOは「コンプリート(完璧な)ボクシング」と称え、大橋会長は、「KOはボクシングで一番の魅力だが、判定勝ちでも魅せられる。この何年かで今日の井上尚弥の試合が1番良い試合だったと思う。判定でもここまで魅せられるボクサーになったんだなと確信した」と、最高の賛辞を贈った。
4年前にアフマダリエフに5回TKO負けを喫していた元IBF世界同級王者の岩佐亮佑氏も感動していた。
「凄い試合だった。ディス・イズ・ボクシングだった。KOがなくとも最後まで緊迫感がある、最高に面白い試合だった。ムロジョンもよくやった。ガードとポジションで凄いスキルを見せた。ボディは効いていたはずだが対応していた。だが井上君は中盤から見切って自分の距離で戦いだした。あそこからもうムロジョンに勝ち目はなかった。彼は、井上君のプレスとスキルでいきたくてもいけなくなった。井上君のこのボクシングなら今後フェザー級に上がっても負けないでしょう」