
世界のマラソントップランナーが集まらない不人気“世陸”で入賞に届かなかった日本男子マラソン界の“トホホ”の現状
昨年のパリ五輪でメダルを獲得した男女6選手のうち今回出場したのは、3秒差で栄冠を逃がした女子のT.アセファ(エチオピア)のみ。なお女子で金メダルに輝いたS.ハッサン(オランダ)は今年からワールドマラソンメジャーズに加入したシドニーマラソン(8月31日)に出場。元世界記録保持者のB.J.コスゲイ(ケニア)との競り合いを制して。2時間18分22秒で優勝を飾っている。
そして今週末に開催されるベルリンマラソンにも東京世界陸上を上回るような豪華メンバーが集結する。
今大会の出場者で自己ベストの上位3人は2時間2分38秒のD.ゲレタ(エチオピア)、2時間3分13秒のV.ゲティッチ(ケニア)、2時間3分23秒のT.タケレ(エチオピア)。一方のベルリンには2時間2分05秒の自己ベストを持つS.サウェ(ケニア)、2時間3分00秒のタンザニア記録保持者であるG.ゲアイ、前回2時間3分17秒の自己新Vを果たしたM.メンゲシャ(エチオピア)らが出場するのだ。
なぜトップクラスは世界陸上に参戦しないのか。そこには〝マネー〟の問題が絡んでいる。東京世界陸上では優勝者7万ドル(約1030万円)、2位3万5000ドル(約515万円)、3位2万2000ドル(約324万円)、8位5000ドル(約73万円)と入賞者全員に賞金が支給される。
これは今年の東京マラソン(1位1100万円、2位400万円、3位200万円、8位30万円)の賞金に近い。ただし、東京マラソンは世界新記録に3000万円、大会新記録に300万円が追加される。
加えて有力選手の場合は賞金だけでなく、出場料もある。一方の世界陸上に出場料はなく、酷暑のマラソンは好タイムが期待できずに、身体へのダメージも大きい。稼ぐことを考えると、同時期に開催されるシドニーやベルリンに出場した方がいいのは明らかだ。
今大会の結果を受けて、「練習をしっかり積んできたなかであれだけの差がついたことを考えると、どこを埋めていくのか。いまいち分からないですね」と吉田は話していたが、メダルを狙うなら、まずは最低でも2時間4分台をマークすべきだ。それからペースメーカーのいない海外レースでも経験を積んだうえで、綿密な計画を立てて勝負していく必要があるだろう。
世界陸連は「暑さ対策」の一環として、2031年大会以降は世界陸上のマラソンを本大会から切り離し、毎年11月に開催されているアテネマラソンを世界陸上のレースとする案を検討しているという。なお世界陸上は2027年大会が中国・北京で開催され、2029年大会は英国・ロンドンとケニア・ナイロビが立候補している。
そのなかで日本勢はどのように世界と対峙していくのか。男子マラソンのメダル獲得は2005年ヘルシンキ大会の尾方剛が最後。北京では22年ぶりとなるメダルを期待したい。
(文責・酒井政人/スポーツライター)