
もうバトン技術は通用しない?なぜ世陸の男子4×100mでリレー侍は6位に惨敗しメダルに届かなかったのか…足がつってブレーキとなった桐生祥秀だけではない「明確な理由」とは?
200~300m区間のタイムは日本が最下位の9秒71。桐生の走りが良くなかったのは明らかだ。ただし桐生がトップの米国と同じタイムで走っていたとしても、単純計算で日本は37秒95。メダルには0.14秒届かない。
メダルを逃したのは桐生ひとりの問題ではないだろう。では、どこに原因があったのか。信岡コーチは、「今回は100mで準決勝進出者がいなかった。力不足というのがあると思います」と個々の走力が足りないと分析した。
それは選手たちも感じたようで、4×100mリレーでメダルを獲得するには、「個人の100mでファイナルに出なきゃいけない」と 栁田が言えば、鵜澤も「シンプルに足の速さが必要だと思います」と話していた。
予選の結果にテレビ中継で解説を務めた高平慎士氏は「予定していた強豪国ではないところにやられている事実を受け止めて決勝に行かないといけないなと思います」と不安を口にしていたが、決勝でもガーナとオランダに先着された。
3位のオランダ、4位のガーナ、6位の日本。バトンをつないだ4人の自己ベストは以下の通りになる。
オランダ 10.17(25年)、9.98(19年)、9.91(25年)、9.97(25年)
ガーナ 10.03(25年)、9.90(22年)、9.94(22年)、9.84(25年)
日本 9.98(19年)、10.00(25年)、9.98(17年)、200m20.11(25年)
予選では〝格下〟に見ていたガーナとオランダに先着されたが、走者4人の自己ベストを見る限り、日本を上回るポテンシャルがあったと見ていいだろう。ここに9秒96の自己ベストを持つサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)が万全な状態で入っていれば、少しは違ったはずだが、日本のレベルは決して高いとはいえない。しかも、近年はバトンパスの精度を高めている国が増えており、日本が誇るアンダーハンドパスで優位に立つのが難しくなっている。
過去の世界陸上で、日本は2017年のロンドン大会で初めて表彰台にのぼると、2019年ドーハ大会でも銅メダルを獲得。29歳の桐生はロンドンとドーハで、同学年の小池はドーハで歓喜を経験している。
「自分が学生の頃を思い出すと、代表に入ればメダルを取れるかもしれない、という憧れや希望がありました。それを若い世代にも見せたかったですね。今回、入賞というかたちを残せて、最後は観衆の皆さんに挨拶できたのは良かったですけど、やっぱりメダルが欲しかった……」(小池)
4年前の東京五輪はバトンがつながらず、予選で敗退した。今回は5万人以上の大観衆が押し寄せた国立競技場で決勝に進出。重圧がかかるなかでも6位入賞を果たした。メダルには届かなかったが、大興奮のスタジアム、4人の激走、桐生の涙が日本をもっと強くしてくれることを期待せずにはいられない。
(文責・酒井政人/スポーツライター)