
世陸東京大会は成功だったのか…3㎞離れたサブトラック問題に不満聞かれるもパフォーマンスに影響なし…観客動員は60万人を突破、日本勢メダル2つに入賞「11」は過去最高
このサブトラ問題は改善すべき課題だろう。ただし、それがパフォーマンスの低下につながったわけではない。今回は大会記録が9つ、エリアレコードも9つ誕生した。一昨年のブダペスト世界陸上は大会記録が7つだったことを考えると記録水準はまずまずだった。
なお2017年のロンドン世界陸上では「引退」を表明していたウサイン・ボルト(ジャマイカ)が男子4×100mリレーのレース中に左ハムストリングスを痛めて途中棄権。ジャマイカは5連覇を絶たれている。このときはレース前に冷える空間(招集所)で選手が40分ほど待機させたことが問題視された。また一昨年のブダペスト世界陸上ではサブトラックから競技場へ選手を運搬するカート同士の衝突事故が起きている。そう考えると、安全面では過去にないくらいのレベルを維持した大会だったと評価してもいいのではないだろうか。
最後に日本勢の活躍を振り返ってみたい。
金メダル候補に挙げられていた男子20㎞競歩の世界記録保持者・山西利和(愛知製鋼)と、女子やり投げでブダペスト世界陸上とパリ五輪を〝連覇〟した北口榛花(JAL)がメダルと、入賞を逃がしたものの、メダル2つを含む入賞11は前回のブダペスト大会と並ぶ〝過去最高成績〟だった。それから日本記録も4つ誕生した。
10年前の北京世界陸上は男子50㎞競歩で谷井孝行が銅メダルを獲得して、荒井広宙が4位。それと女子マラソンの伊藤舞が7位と入賞は3つしかなかった。それを思うと、日本勢のレベルは急激に上がっている。
日本陸連の有森裕子会長は、「まだアスリート気分が抜けなくて、34年前に出場した自分と照らし合わせながら観ていて、とにかく毎日が感動しかなかった」と大会を振り返った。そして日本代表の活躍には、「自分たちが世界に近づける、というパフォーマンスを感じました」と評価している。
山崎一彦強化委員長も日本勢の戦いをこう総括した。
「プレッシャーのかかる中で結果を出せない弱い日本人、という印象を脱却できたかなと思います。ダイヤモンドアスリートを中心に、日本の宝が生まれ、ダイヤモンドリーグ転戦や海外を拠点にし、メダルや入賞の再現性という流れを作ってくれました」
とはいえ、ここがゴールではない。
「最終到達点は(2028年の)ロサンゼルス五輪」と山崎強化委員長。今後は、「U23の強化を進め、選手とともにコーチもインターナショナルに活躍できるように育てていきたい。大会後から万全を尽くせるように戦略を組んでいきます」と話した。
はたして東京2025世界陸上は成功だったのか。
東京五輪と異なり、今回は多くの〝目撃者〟がいて、スタジアムは過去の日本陸上界にはない熱狂があった。この熱がロス五輪の活躍と今後の日本陸上界の発展につながったとき、初めて「成功だった」と言えるのではないだろうか。
(文責・酒井政人/スポーツライター)