「誤解を生むようなことを書かないで欲しい」大晦日WBA挑戦者決定戦に4回KO勝ちした井岡一翔がメディアへ苦言…その理由とは?
さらに苦言は続いた。
「拓真選手と戦いたいとはもちろん以前から言っているが、彼が一番バンタム級のチャンピオンの中で質が高いとは言っていない。それを堤に言うのも失礼。言っていないことを僕が言ったことのように僕を使って質問するのはやめて欲しくて」
これは筆者のことを言っているのかもしれない。
WBA世界バンタム級王者の堤聖也(角海老宝石)とWBA同級暫定王者のノニト・ドネア(フィリピン)戦前の公開練習で筆者は堤にこう質問した。
「井岡選手が一番やりたいのは拓真選手で、拓真選手がバンタムの中で一番評価が高いんじゃないか、というような発言したんだが、反骨心に火が付くようなことがあったか?」
正確には井岡のコメントはこうだった。
筆者が「堤、拓真、ドネア。誰と一番戦いたいですか?」と聞いたときに「率直に正直、誰と一番やりたいかと言えば、拓真選手ですね」と返した。その理由を聞くと「評価的にも一番高いんじゃないですか。今回の試合も含めて。盛り上がりを考えても一番、拓真選手がファンの方も見たいんじゃないかなと。誰とでも全然、僕は戦いたいですけど、強いて言うなら拓真選手とその3人の中ではやりたいですね」と答えた。
筆者が、堤に伝えた井岡のコメントのニュアンスはそう間違っていないと思うが、またどこかの別の取材機会で「拓真選手が一番チャンピオンの中で質が高いと井岡が言っている」と堤にぶつけた記者がいたのだろうか。できる限り正確には伝えたいが、一問一句間違わずに発言を相手に伝えることは難しい。そもそも堤は筆者が聞く前に、すでに報道で井岡の発言は知っていたのだと思う。
だが、できる限り正確に伝える、あるいは、「これは正確ではないが」との注釈をつけるなどの作業を記者として怠ったとの自戒はある。
井岡がここまで神経質になるのは堤のプライドを傷つけたのではないかとの心優しい配慮なのだろう。2人はスパーリングで拳を交わしてきた仲でもある。ボクシングは弱肉強食の世界だが、井岡は人を傷つけてまで夢をつかむ気持ちはない。
だが、堤はそういう井岡の配慮も井岡の希望も理解している。堤は大田区総合体育館のリングサイドで井岡の拓真への挑戦表明を聞き、笑いを交えて「(WBA挑戦者決定戦は)なんの試合だったのかな。(故郷の)熊本に帰るのを先延ばしにしたのに(笑)」と愚痴った。
そして「東京ドームに割り込めたら一番良かったんですが、ここで(拓真とやりたいと)言っちゃいましたからね。井岡一翔vs井上拓真は誰もが見たい。でもクソーという気持ちもある。このままの流れで決まるとクソ―と思う」と、本音を明かし、前を向いた。
「次が決まんなくても、僕も負けないならいずれできる。頑張って勝ち続けていれば。出されているご飯を食べていれば、御馳走がつく。もうちょっと頑張りたい」
そもそもWBAは堤に120日以内に休養王者のアントニオ・バルガス(米国)との指名試合を指令していて井岡の挑戦を受けるのは難しい状況にある。
井岡はメディアに苦言を呈した後に「ちゃんと伝わるように言いたいんですが」と念を押して、なぜ井上拓真戦を熱望しているかを詳しく力説した。
文章ではなかなか伝えにくいが、井岡の苦言はピリピリした雰囲気の中で発信されたものではない。笑いを交えながらの“お願い”ベースでメディアとの信頼感を深めようとしたものだった。
だが、我々メディアは、ひとつの教訓として深く受け止めねばならないメッセージだと思う。こういうメディア不信が重なると、どんどん喋らなくなり、ファンに井岡の言葉が伝わらなくなる。これは昨今のスポーツ界で起きている現象でもある。誤解を招くような報道は避け、そういう最悪の事態は回避しなければならない。
スポーツメディアがジャーナリズムであるかどうかの議論はある。ただ、たれ流しの一部映像メディアとは違い、ジャーナリズムには、それぞれの見解や主張があることは井岡には理解しておいてもらいたい。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

