「1回転でも付けていれば金メダルだった」メダルの色を分けた坂本花織とアリサ・リュウの1.89点差の正体とは…無良崇人氏の見解…「リスクのあるプログラムと、ふと一瞬の…」
ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート女子シングルフリーが19日(日本時間20日)に行われ、米国のアリサ・リュウ(20、米国)が金メダル、坂本花織(25、シスメックス)が銀、中井亜美(17、TOKIOインカラミ)が銅メダルを獲得した。今大会を最後に引退する坂本は演技終了後に中野園子コーチ(73)と抱き合い号泣した。リュウと坂本の点差はわずか1.89点。何が勝敗を分けたのか。グランプリシリーズや4大陸選手権で金メダルを現在はプロスケーターとして活躍中の無良崇人氏(35)に見解を聞いた。
「前は奇跡のような銅メダル。銀メダルで悔しいと思えるくらい成長したかな」
坂本に笑顔はない。リンクを出て中野コーチの顔を見ると抱きつき号泣した。
「正直、ここで完璧に決めたかったという気持ちが強かった。できなかった分が優勝を逃してしまった点数分だったので、それが苦しくて涙が出ました」
フリーで150.20点をマークし計226.79点で金メダルのリュウと同147.67点で計224.90点の坂本との差はわずか1.89点。
その差は坂本が犯したたったひとつのミスだった。
得点が1.1倍となる後半の最初に予定していた3回転フリップ+3回転トゥループの連続ジャンプが3回転フリップの単独に終わった。着氷後の態勢が前のめりになり、2つ目のジャンプを跳べなかった。坂本はすでに前半に3回転フリップを使っていたので、REP(繰り返し)のペナルティを科され、この3回転フリップの基礎点が70%の4.08点となり、ここで得点を大きくロスした。3回転フリップ+3回トゥループに挑んでいれば基礎点は10.45点あった。余裕でリュウの得点を越えていた。
「できなかった分が優勝を逃した点数」というのは、そういうことだ。
無良氏は、「3回転フリップの後に3回転トゥループを飛べなくともシングルトゥループでもつけて連続ジャンプにしていれば上回っていたでしょう。本人の悔しさはわかります。結果的にこのミスが勝敗を分けることになりましたから」と解説した。
もし3回転フリップ+シングルトゥループであっても、基礎点は6.27点で、2.19点アップしており、僅差でリュウを上回り金メダルだった。
なぜミスが出てしまったのか。
目の前でリュウがノーミスで会場を沸かせる演技を見せて高得点を叩き出したことがプレッシャーになったのか。
無良氏はその仮説を否定した。
「動きとしては悪かったわけじゃない。開くタイミングがちょっと遅く、着氷時に前傾してしまい、次のジャンプにつなげることができませんでした。戦略として得点が1.1倍になる後半の最初にコンビネーションジャンプを持ってきました。疲労などを考えるとリスクのあるプログラムではあります。目の前でリュウ選手が出した得点はプレッシャーでしかなかったと思います。金メダルになるかどうかの戦いです。当然、緊張はするでしょう。でも、坂本選手は北京五輪も経験していて、ここにくるまで世界選手権など、幾たびもこういう修羅場をくぐりぬけています。もしプレッシャーや緊張感がミスの原因であればプログラムの前半にミスが出ています。僕は落ち着いて入れて流れが良かっただけに、逆に、ふと一瞬、気持ちが抜けてしまったんじゃないかと見ています。演技構成点でもリュウ選手を上回る素晴らしい内容だっただけにもったいなかった。でも、GOEを積み重ねていくことで勝負する女子の世界においては、このほんのちょっとの差が、勝ち切れる、勝ち切れないの差となってきます。そこが特別な舞台である五輪の難しさなのでしょう」

