「負けたら次の日がない」なぜ那須川天心はレジェンドを”病院送り”にし井上陣営を「強くなった」と感嘆させる涙の復活を果たせたのか…「本田会長の決断と父への電話」…知られざる舞台裏
プロボクシングのWBC世界バンタム級挑戦者決定戦が11日、両国国技館で行われ、同級2位の那須川天心(27、帝拳)が9回終了TKOで元2階級制覇王者の同級1位ファン・フランシスコ・エストラーダ(35、メキシコ)を破った。エストラーダは天心の執拗なボディブローで左脇腹を骨折した疑いで棄権を申し出て、救急車で病院に搬送された。なぜ昨年11月のWBC世界バンタム級王座決定戦で井上拓真(30、大橋)に完敗した天心は崖っぷちの戦いで復活と遂げることができたのか。

ボディブローで肋骨骨折の疑い
両国にヒーローがよみがえった。
10ラウンド開始の時刻になってもエストラーダがイスから立ち上がらない。プロモーターのファン・ヘルナンデス氏が、試合後に明かしたところによると、9ラウンドが終わるとエストラーが涙目をして「もう辞めたい」とセコンドに訴えた。トレーナーがコミッションドクターの助言を聞き入れて棄権を申し出た。
「まじか」
天心は一瞬、目の前で起きたレジェンドのギブアップが信じられなかった。
「相手も何も打つ手がなくなっていた。その前のラウンドからセコンドから行けと言われたので行くところだなと思っていたところでのストップ。技術で勝つことができたんじゃない。自分のやってきたことでしっかり勝ったことが自信になった。すごい嬉しかった」
天心は右手をあげ、エストラーダと互いに健闘を称えあった後に顔をくちゃくちゃにして泣いた。中学生以来のコンビを復活させた帝拳OBで「GLOVES」会長の葛西裕一氏が「泣くな、笑え」というと、天心の表情は、泣き笑いに変わった。
場内インタビューで「泣いていない」と言ったものの「試合前は怖くて、自分を信じられないことがあって…」とまで話したとき、また涙ぐんで言葉に詰まった。
エストラーダのプロモーターは「2ラウンド前のボディだろう。肋骨が折れているのかもしれない」と説明した。エストラーダは試合後の会見をキャンセル。救急車で病院に救急搬送された。
生まれ変わった天心を披露した。
小刻みには動くが、足を止めて左ストレートを踏み込んで打つ。手打ちで「パンチがない」と揶揄されてきた天心のパンチに威力が増していた。2ラウンドには、左を浴びたエストラーダが、ブルブルとクビをふるほどのダメージを与えた。だが、エストラーダも百戦錬磨。ノーモーションの右で対抗してくる。
悪夢が蘇ったのが4ラウンド終了時点での公開採点である。
1者は「39ー37」で天心を支持したものの2者が38-38とドローをつけたのだ。昨年11月の井上拓真戦でも4ラウンド終了時点で3者がドローとつけたため、焦ってそこからペースを明け渡した。
「あの嫌なトラウマを思い返しそうにはなった。そこからが本当勝負だなというところを前回経験してた。あの経験があったからこそこうやって乗り越えられた」
ここからが負けを知った天心の成長だった。
フェイントを入れながら、右から左ボディ、左から右ボディと対角線に打ち分け、小さいパンチで反撃されてもペースを渡さない。
「これまでは、あそこで引いていた。どうしよう、もう1回距離をとってと、相手に飲み込まれていた。でも練習で葛西さんと会長とずっとガードを固めて前に出ることを考えてやってきた。自分でやってきたことを信じて戦えたのは大きい」
陣営も混乱を修正していた。葛西氏の「今日は頼むぞ」との声かけを勘違いした”カットマン”のルディ・ヘルナンデストレーナーが1ラウンドのインターバルでメインセコンドの位置に入ったのだ。2ラウンドからは、葛西氏がメインの位置に変更してセカンドワークが機能した。

