
「指導者のほとんどが明日はわが身と感じているんじゃないですか」広陵の“暴力事案”が甲子園出場監督に与えたショックと覚悟「2年半は親代わり。選手1人1人のシグナルを見逃さない」
第107回全国高校野球選手権大会で1回戦を突破した名門の広陵(広島)が揺れている。大会に入ったと同時に暴力事案で日本高野連から3月に厳重注意処分を受けていたことが判明、さらに別の事案があったこともSNSで告発され、学校側が公表するなど日に日にエスカレートしている。他の出場校の関係者はこの事態をどのように受け止めているのだろうか。大阪桐蔭を破って14年ぶり2度目の大阪代表となった東大阪大柏原の土井健大監督(36)に意見を聞いた。
部員、保護者、指導者の三者の信頼構築が重要
とんだ“場外戦”が球児の熱戦に水を差している。
今夏の甲子園大会は熱暑対策により「午前の部」「午後の部」に分け、苦肉の策とも言える選手ファーストの運営がなされているが、もうひとつ真剣に応援できないというファンが多い。SNS上で「試合どころじゃない」という騒ぎになっている大きな原因が他ならぬ名門・広陵の不祥事だ。
発端は今年1月、寮の規則を破った下級生の部員に対し、複数の上級生部員が個別に暴力をふるったとの事案が発生。3月5日に日本高野連は審議委員会を経て厳重注意処分と当該部員の1か月の公式試合出場停止処分を下した。この判断が重いか軽いかは別として、公式的には一件落着した。ただ学校側は、「被害者生徒及び加害者生徒の保護の観点」から公表せず、日本高野連も日本学生野球憲章の規則では、注意・厳重注意処分は原則として公表しない」と定められているため、すべてを伏せていた。その後、広陵は激戦区を勝ち上がり、甲子園出場を決めた。
ところが、大会を前にして被害部員が別の暴力、暴言を受けていたとの情報がSNS上の告発により一気に拡散され、収拾がつかない状態になった。
SNSでは、出場辞退を求める声もあり、これを受け、高野連側も6日に注意喚起を促す以下のような異例の声明を発表した。
「広陵高校の選手、関係者に対する誹謗中傷や差別的な言動などが、特にSNS上で拡散されております。こうした行為は、名誉や尊厳、人権を傷つけるものであり、決して看過できません。誹謗中傷や差別的な言動などは、くれぐれも慎んでいただきますようお願い申し上げます」とし、その上で「大会出場の判断に変更はありません」との見解を示した。
この事態に国も動き、阿部俊子文部科学大臣は8日に会見し「暴力行為があったことは大変遺憾に思っている。暴力は決して許される行為ではなく、高校は被害を受けた生徒のケアと暴力行為に及んだ生徒への指導など適切に対応し、再発防止に努めてほしい」と述べていた。
もちろん一連の事案は他の出場校の選手や関係者にも少なからずショックを与えている。
就任7年目にして大阪桐蔭を決勝で破り、東大阪大柏原を甲子園に導いた土井監督も慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「指導者のほとんどが明日はわが身と感じているんじゃないですか。私立の強豪校だろうが、普通の公立校だろうが、いじめや暴力事件は、起こり得る。生徒のことを365日、24時間目配せするのは無理だし、ときに子どもの行動は予想を超えてきますしね」
他人事とは思えない。これは指導者側としての偽らざる本音だろう。