
なぜ県岐阜商と横浜の8強の戦いは高校野球史に残る名勝負となったのか…ノムさんの元右腕が激賞した横浜二塁手の「プロでもできないプレー」と県岐阜商の「隙を見逃さない粘りと集中力」
第107回全国高校野球選手権の準々決勝4試合が19日、甲子園で行われ、山梨学院、日大三、県岐阜商、沖縄尚学の4チームがベスト4進出を決めた。高校野球史に残る名勝負となったのが県岐阜商と春夏連覇を狙った横浜との一戦。4点差を追いついた横浜は「内野5人シフト」などで2度のサヨナラピンチをしのいだがタイブレークの延長11回に力尽きた。元ヤクルトの編成部長で故・野村克也氏の“右腕”としてコーチを務めた松井優典氏は、横浜の二塁手、奥村凌大のワンプレーとドラフト候補らか揃った横浜から16安打を奪った県岐阜商の集中力を称えた。
「内野5人シフト」でサヨナラ危機を脱出も
記憶に刻まれる名勝負だった。
4-4で迎えた9回に甲子園がどよめきに包まれた。
横浜が「月に1回、練習していた」(村田浩明監督)という「内野5人シフト」の奇策を繰り出したのだ。9回一死一塁から駒瀬陽尊を一塁ゴロに打ち取るも、封殺を狙った送球が走者に当たり、一死二、三塁のサヨナラ機を背負うと、ここで村田監督が動いた。
一塁手を思い切って前へ出し、二塁手を一塁へ寄せ、途中出場のレフトの阿部駿大を呼び寄せセカンドベースの右前あたりを守らせてヒットゾーンを埋める「内野5人シフト」を敷いた。
県岐阜商の藤井潤作監督は、稲熊桜史に最初は打たせた。だが、2球ファウルとなりカウント1-2から一転、スクイズのサイン。だが、そのバントは前進守備の一塁手の正面。小野舜友からグラブトスされたバックホームに突っ込んできた走者がタッチアウトとなり得点を許さない。「内野5人シフト」がズバリ的中した。
さらに一、三塁と続くピンチにマウンドの奥村頼人は内山元太に死球を与えて浮足だった。満塁となり、4番、坂口路歩は詰まったセカンドゴロ。しかし、一塁手の小野が打球を追い、飛び出してつまずいていた。一塁カバーが間に合うかどうかもわからない。あわやサヨナラの場面だったが、セカンドの奥村は、冷静に体を切り替えてなんと二塁へスナップスロー。一塁走者をアウトにして大ピンチを切り抜けたのだ。
元ヤクルト編成部長で、名将、野村監督の元で、ヤクルト、阪神、楽天でコーチを務め、「ノムさんの右腕」と呼ばれた松井氏は「プロでもできないプレー」と絶賛した。
「視野を広くしておかねばできない難しいプレー。凄い判断だ。こういうプレーは一塁手の一塁カバーが遅れていることを確認してからでは間に合わない。すべてを瞬時に判断しなければならない。鍛えられている横浜の内野守備と、奥村君のセンスのたまものだろう。内野5人シフトにも誰一人として戸惑いが見られなかった。相当練習をしていないとあの守りはできない」
この守りから流れは横浜に傾いた。
10回表から始まった無死一、二塁からのタイブレークで、県岐阜商の守備の乱れと、キャプテン阿部葉太のセンターへゴロで抜ける2点タイムリーなどで3点を奪い、7-4としてほぼ勝利を手中に収めたかに見えた。だが、県岐阜商はあきらめない。その裏、先頭、宮川鉄平のヒットで満塁として、小鎗稜也が、左中間を深々と破る走者一掃の二塁打で同点にしたのだ。さらに無死二塁のサヨナラピンチにまた横浜が凄まじい守りを見せる。
まず横山温大のバントを奥村が好フィールディングで三塁でアウトにした。渡辺璃海にセンター前ヒットでつながれ、一死一、三塁となり、藤井監督は「この回で決めてやろう」と、エースの柴田蒼亮の打席に1年生の代打、丹羽駿太を送った。