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東洋太平洋スーパーフェザー級王座決定戦はドロー。左が渡辺卓也、右が森武蔵
東洋太平洋スーパーフェザー級王座決定戦はドロー。左が渡辺卓也、右が森武蔵

井岡一翔は号泣した“愛弟子”森武蔵の東洋太平洋王座決定戦のドローに何を思ったか…新王者は誕生せず再戦へ

 プロボクシングのOPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王座決定戦が29日、後楽園ホールで同3位の森武蔵(23、志成)と同6位の渡辺卓也(34、DANGAN AOKI)で争われ、ジャッジ3者共に114-114のスコアでドローとなり新王者は誕生しなかった。試合は予想外の接近戦となり渡辺がアッパーなどのショートパンチでポイントを稼ぎ、8ラウンド終了時点での公開採点ではリードしていたが、武蔵が怒涛の追い上げで引き分けに持ち込んだ。14年ぶりに後楽園ホールに来た武蔵の“師匠”の元4階級制覇王者の井岡一翔(34)は「普通はあの展開からドローに持っていけない」と評価。今回のタイトル戦をプロモートした志成ジムサイドは再戦を前向きに検討する考えであることを明かした。

 想定外の超接近戦

 本部席に置かれた赤いベルトは誰の腰にも巻かれなかった。東洋太平洋スーパーフェザー級の王座決定戦の判定結果は、3者共に114-114のドロー。勝者も敗者もない。用意されていた勝利者インタビューは中止となり、武蔵と渡辺は、揃ってリングを下りた。
 新型コロナの取材規制が解かれた控室。
「どっちがとったかはわからなかったけれど、戦っている感覚からすると、僕のボディのいいのが当たっていると思っていた。わからないからこそ、悔いがないくらい前に出たけど遅かった。首の皮一枚つながった…。けど自分が上へいけなかったのが悔しい。チャンスをもらってモノにできない自分が情けない」
 武蔵は話している途中で声を震わせて泣いた。
一方の渡辺はただ広い控室の椅子に一人座っていた。
「終わった瞬間、勝ったという感じはあった」
 ドローの判定に納得がいかない。
 彼もまた落ち込んでいた。
 どちらも引かない究極の“根性試し”のようなインファイトに突入したのは4ラウンドから。以降、8ラウンドまで、頭をつけあい、その場で足を踏ん張ったままの殴り合いが延々続く。ノーモーションの左を武器にするサウスポーの武蔵の長所を封じるために、渡辺が仕掛けた超接近戦のように見えたが、「ここまでの接近戦になるという想定はまったくしていなかった」と振り返る。
 武蔵にとっても「インファイトじゃない遠い距離の練習をしていた。インファイトにもっていかれたのか、僕が悪いので、ああなったのかわからない」と想定外だった。
 互いに、下がることを嫌った結果、気持ちで負けた方が敗者となる超密着戦となったのである。
 だが、その戦いでは、この試合が52戦目となる渡辺のキャリアがものを言った。1センチも空間のない密着戦の中で、隙を見つけて、体の位置をずらしながら、アッパーやフックの見映えのいい小さく細かいパンチをコツコツと当ててポイントを稼いでいく。
「俺は、くっつくのも好きなんでやったけど」
 8ラウンドが終わった時点での公開採点は3者共に77-75で渡辺を支持した。
 渡辺は残り4ラウンドのうち2つを取れば勝ち、一方の武蔵は3つ取ってドロー、逆転勝利には全ラウンドをポイントアウトするか、渡辺を倒すしかなかった。武蔵にとって不利な展開を脱却するには、中間距離に戻して戦うしかないと見ていたが、佐々木修平トレーナーは、武蔵に「引くな。前へ出続けろ」と、インファイトの継続を指示した。
「中間距離でも相手が一枚上。出鼻に右ストレートを合わせられていた。武蔵は不器用なんで、あそこから戦術を変えるよりパワーを生かし押しきる方がいい」
 再スイッチが入ったように武蔵は前へ出てインファイトを継続。頭をつけてロープに押し込み、力の限りボディを打ち込む。11ラウンドには少し距離ができて、武蔵自慢の左ストレートがヒットした。渡辺がこの試合で初めて下がり動きが止まる場面が生まれた。

 

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