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井上浩樹(右)が永田大士を4ラウンドに追い詰めるも拳を痛めて失速し判定負け(写真・山口裕朗)
井上浩樹(右)が永田大士を4ラウンドに追い詰めるも拳を痛めて失速し判定負け(写真・山口裕朗)

なぜ井上尚弥の“いとこ”浩樹は4年越しのリベンジに失敗して2度目の“引退”を口にしたのか…「正直、僕はもうここまで」

「前回は負けて、いじけた感じで『辞める』と言って情けない(感じ)で終わった。今日は言うことはない。楽しかったです」
 腰痛などの故障に悩まされ、ほとんどジムに顔を出さない“幽霊ボクサー”だった井上が、引退を撤回し再起した昨年からは、ロンドン五輪代表の鈴木トレーナーとコンビを組み、生まれ変わったように練習に取り組むようになった。井上家の“最終兵器”と呼ばれるほどのポテンシャルが覚醒し始めたところだった。
 井上の囲み取材の途中で控室に永田陣営が挨拶にきた。
 永田が「チャンピオンは別人だった。気持ちが伝わった。おかげで強くなれた」とお礼を言うと、井上は「楽しかったです」と返した。大橋会長は、2人に「もう一回だな」と3度目の対戦を求めた。
 永田は、拳を通じて井上の覚悟を感じ取っていたのか。
「一生懸命頑張れば、ボクシングはおもしろいので辞めないで下さい」とエールを送った。
――永田の言葉をどう受け止めた?
 井上は「うれしいですけど…」と言い、心に秘めた決意を口にした。
「僕は正直、ここまでかなと思いますね。自分の人生の中で、一番くらい頑張ってたんで、もういいかなと思います」
 そこまで言って下を向き言葉に詰まった。涙があふれ出た。嗚咽…言葉が続かない。
「悔いはない。楽しかったです」
 限界だと思わせる試合ではなかった。片手でも戦い方を工夫すれば、展開を変えることもできただろう。
 それでも「自分が(自分の力を)一番わかっている。教えるのも好きなんで、そっちの方がいいんじゃないかなと思っています」と、トレーナーに転身する、今後のセカンドキャリアプランについてまで語り「やりきりましたね。いろんな支えがあって本当にやりきりました」と、ハッキリと引退の意向を示した。
 試合直後には尚弥が控室に来ていた。
――尚弥にそれは報告したか?
「尚弥には言っていないが、感じ取ってくれている気はします」
 井上の2度目の引退の決意は揺るがないだろう。
 永田と3度目の対戦をすれば勝てるかもしれない。だが、井上尚弥の「漫画はいつでも書けるけど、ボクシングは今しかできないよ」という言葉に背中を押されて再起した際、井上は「世界王者」を目標に掲げた。痛めた拳をカバーするボクシングをできなかった敗戦の中で、世界王者になることへの限界を感じとったのかもしれない。
 リベンジを返り討ちにした永田は、井上に最大級の敬意を示し、こんな話をしていた。
「(前回の対戦からの成長が)本当に実感として伝わった。彼は常に(ビッグスターの井上尚弥と)比べられる立場で人生を歩んでいる。それだけでも凄い。僕はただの一般人。彼には、(井上尚弥の)いとこというブランドがつきまとう。その中で彼なりに頑張っている。そこをリスペクトしたいし、カムバックして僕と戦った。だから僕も誠意を持って戦った」
 1432人で埋まった後楽園ホールを包んだ熱気と興奮。井上は偉大なるいとこを超えることはできなかったかもしれないが、そのラストファイトは、モンスターのいとこの“ブランド”に恥じない戦いだった。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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