
「挑戦者はサムライだった。ずっと怖かった」井上尚弥に迫っていた知られざる“第2のピンチ”を真吾トレーナーが明かす…「酸欠状態になるのが…」
プロボクシングのスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(32、大橋)が米ラスベガスでWBA1位のラモン・カルデナス(29、米国)を8回逆転TKOで破った衝撃の余波は、今なお続いている。父で専属トレーナーの真吾氏(53)に聞いた激闘の真実。知られざる“第2のピンチ”と物議を醸したレフェリーの判断とは?
「1番すげえなと思ったのはレフェリーですよ」
モンスターが勝負に出たのは7ラウンドだった。
2ラウンドにカルデナスの左フックをまともに浴びて、まさかのダウンを奪われるものの。そこから挽回をして形勢は逆転していた。3人のジャッジの採点は、3、4、5、6ラウンドのすべてで井上を支持していた。
リングサイドにいた大橋秀行会長と、元3階級制覇王者の八重樫東トレーナーは2ラウンドのダウン後「判定でいい」と「ポイント、ポイント」と声をあげた。
だが、真吾トレーナーにその声は届いていなかったという。
「でも会長と自分も考えは一緒なんです。いつでも判定でいいと思っているんです。尚にも判定いいという気持ちはある。でも尚のボクシングスタイルは、ペースを取って、徐々にダメージを与えていくので、そうはならない。性格もあって、自分からフィニッシュにもっていく。そういうボクシングスタイルですからね」
強度をあげたワンツーからプレスをかける。ガードの上から右のストレートを叩き込む。それでも挑戦者のカルデナスは笑っていた。ロープに下がらせて右のボディを横からめりこませると、ロープの二段目に腰が落ちかけた。しかし、まだ挑戦者は心を折らない。逆に肩をぶつけあう至近距離からガード越しだったが、また左フックを浴びて、井上がスルスルとロープに下がったのだ。カルデナスは、左のボディショットで追い打ちをかけてくるが、井上が右ストレートをヒットさせると、カルデナスがコーナーに後退した。右ストレートだけを長短織り交ぜて4連打。ついにカルデナスはコーナーからずり落ちるかのようにダウンした。
真吾トレーナーは「ボディブローによるダメージの蓄積があったのかもしれない」と見ていた。だが、カルデナスは立ち上がってきた。
残り14秒。
この時、コーナーから真吾トレーナーが「つめろ!」と叫んでいた。
「これで仕留められなかった時に酸欠状態となりスタミナが切れるのが怖かった。だからあそこで終わらせたかった。でも仕留め切れなかったんです」
井上がコーナーに戻るとまず真吾トレーナーは「深呼吸をしろ!」と言った。
「スタミナ切れが心配だったがインターバルで回復した。練習のたまものです。普通なら、そこで失速する。でもインターバルで、8ラウンドへの流れを作り、最後のフィニッシュまでやりきった。練習はウソをつかないんです」
今回は、元3階級制覇王者の八重樫トレーナーの指導のもとで行われるフィジカルトレーニングの強度をあげた。
井上が「強くなるか怪我をするか紙一重」と言うところまで追い込むハードトレ。「強度なトレーニングがメンタルトレになる」とも口にしていたが、その成果が米ラスベガスの大舞台で生きた。