
あり得ない!3度ダウンの衝撃127秒TKO…なぜWBO王者の武居由樹はあえて那須川天心の名前を出さず「もう1本ベルトが欲しい」と発言したのか…WBA休養王者の堤は対戦を熱望
プロボクシングのダブル世界戦が28日、横浜BUNTAIで行われ、WBO世界バンタム級王者の武居由樹(28、大橋)は同級7位ユッタポン・トンデイ(31、タイ)から1ラウンドに4度のダウンを奪い2分7秒にTKO勝利した。世界戦3戦目にして初のKO勝利。大橋秀行会長(60)からの「野性味を取り戻せ」の指令に応えた。試合後には「もう1本ベルトが欲しい」とリング上から呼びかけ、那須川天心(26、帝拳)の名前はあえて出さなかった。一方でリングサイドにいたWBA世界同級休養王者の堤聖也(29、角海老宝石)は笑顔でファイティングポーズを取り、武居との2団体統一戦を熱望した。武居は、9月14日の名古屋でのスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(32、大橋)とWBA世界同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(30、ウズベキスタン)のアンダーカードで、WBO同級1位のクリスチャン・メディナ(25、メキシコ)と指名試合を行う予定となっている。

1ラウンドから倒しにいった
横浜BUNTAIで新しく始まったボクシングの歴史に武居がいきなり語り継がれる衝撃の1ページを加えた。
開始わずか45秒だった。
「向きあった時に雰囲気があって怖さがあった。入りにくい距離の駆け引きに怖さがあった」
挑戦者のユッタポンは、15勝(9KO)無敗で、アマ時代にアジア大会の金メダル、五輪で2大会連続金メダルを獲得している元WBO世界フェザー級王者のロベイシ・ラミレス(キューバ)に土をつけたキャリアを持ち、しかも、元ムエタイのラジャダムナン王者である。無言の圧力を感じたというが、武居が心に決めた強い意思が黙っていなかった。
「絶対にKOで勝ちたかった。飛ばしていった」
右の小さなジャブから、みぞおち付近に、左のボディショットをめり込ませると、続けざまに右から同じタイミングで軌道を変えた“殺戮の左”をその顎にピンポイントで打ち込んだ。野球で言えばストレートと同じタイミングでフォークを投げられるようなもの。元ムエタイ王者は反応できずその場にひっくり返った。すぐさま起き上がってきて、逆襲を狙うユッタポンの右と武居の左が相打ちとなった。だが、武居のそれが強烈で2度目のダウンを奪う。タイ人は、またすぐに立ち上がってきたが、今度は王者の左ストレートが襲い掛かった。ユッタポンはコーナーまで吹っ飛んだ。
「1回目のダウンで効いているのがわかった。このラウンドで倒しきるつもりでいた。1回目、2回目(のダウン)でレフェリーが止めてくれるのかなと思った。続行したので、もらいながらでも倒し切ってやろうと思っていた」
元ムエタイで1000戦以上のキャリアを持つユッタポンのタフネスは半端ない。またゾンビのように立ち上がってきたが、左フックで大きくバランスを崩させて、ラッシュをかけると、ロープを左手でつかみずり落ちるようにして3度目のダウン。さすがにフィニッシュかと思われたが、またすっと立った。
武居が猛ラッシュで連打を浴びせると、レフェリーが間に入りようやくTKOを宣告した。その瞬間、武居は「ウォー」と雄叫びをあげた。
元K-1王者vs元ムエタイ王者の戦いは、衝撃の127秒TKOで決着がついた。
「野性味を取り戻せ」
それがこの試合のテーマだった。大橋会長からは「守りに入っている」と指摘され、八重樫トレーナーにも「武居由樹らしい戦いを」と求められた。
8試合連続KOの勢いで、昨年5月に東京ドームでジェイソン・モロニー(豪州)の持つWBO王座に挑むも、最終ラウンドにグロッキー寸前まで追い詰められて薄氷のタイトル奪取。初防衛戦では、元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(志成)に11ラウンドにダウンを奪われたもののなんとか判定勝利をもぎとった。2人のレベルがトップクラスであったことも確かだが、大橋会長や八重樫トレーナーが認める武居のポテンシャルを考えると物足りなかった。