
国内で36年ぶりウエルター級世界戦…井上尚弥がエールの佐々木尽は“三日月フック”で“世紀の番狂わせ”を起こせるのか…パッキャオと対戦した元王者は「ノーマンに危険も」可能性を示唆
ただ佐々木陣営もその作戦を温めていて、中屋トレーナーも「1ラウンド勝負ですよ」と筆者に断言している。1986年7月に現在帝拳代表の浜田剛史氏が、当時のWBC世界ジュニアウエルター級(現スーパーライト級)王者のレオ・アルレドンド(メキシコ)を1ラウンドKOした試合の再現が理想だろう。浜田氏はゴングと同時に前に出てラッシュを仕掛けて、ラウンド終了間際にロープに追い込み、強烈な左右のフックを浴びせてキャンバスに沈めた。
佐々木には“世紀の番狂わせ”を起こすための“武器”がある。
中屋トレーナーが明かす。
「尽のフックは、拳、手首、肘の3点を結ぶラインを連動させて半円を作ってパワーを倍増する独特の打ち方をしているんです。手首のスナップも使う。使用するウイニング製のグローブは手首が柔らかくてそれができるんですよ。でもノーマンは映像や練習を見る限り手首を使って打てていない。それは彼が使うグローブ(グラント製)の手首部分が堅いことも手伝っている。この差が先にパンチが当たるか、当たらないかに影響するんですよ」
フックにはあのミドル級の“レジェンド”ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)が使っていた肘を高くあげて独特の角度をつける“ゴロフキンフック”など、いろんな打ち方があるが、佐々木のそれは中屋トレーナーが説明するように、拳、手首、肘で半円を作って、遠心力を増す、いうならば“三日月フック”。スナップを効かせるのでたとえ相打ちになってもノーマンのパンチよりも先に当たるという。
その“三日月フック”を生かす追い風もある。この日のルールミーティングで8オンスのグローブ使用が正式に確認された。国内ではウエルター級以上は10オンスを使用することになっているが、世界基準では、ウエルター級までは8オンスの使用が公式ルール。JBCの安河内剛・本部事務局長は、「日本でもかつてはウエルター級でも8オンスが使われていましたが、20年ほど前に事故が続いたため安全性を確保するために10オンスに改定されました。ウエルター級での世界戦が国内で行われるという想定がなかったこともあります」と説明した。
グローブが小さくなるとパンチャーが有利とされる。佐々木も「8オンスなら素手に近くなる。どこに当たっても効かせられるイメージがある。小さい方がいい」と歓迎の意思を伝えていた。
計量を終えた後の、佐々木の“勝負飯”は、母親手製の「おかゆ」。夜には、減量中にずっと食べていた焼き鮭に、スーパーマーケットで「一番高めの」ウナギを選んで購入し「パワーが出る」しじみの味噌汁を付けての和食メニューで臨戦態勢を整えるという。
囲み取材の最後。
試合バージョンに髪の毛をセットした佐々木が自己暗示をかけるかのように前日の公式会見で「8対2」としていた勝利確率を「100」に上方修正した。
「勝ちましたね。負けるはずがない」
動画配信サービス「Lemino」で独占ライブ配信される歴史的なゴングは、午後8時30分前後に予定されている。(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)