
なぜ県岐阜商と横浜の8強の戦いは高校野球史に残る名勝負となったのか…ノムさんの元右腕が激賞した横浜二塁手の「プロでもできないプレー」と県岐阜商の「隙を見逃さない粘りと集中力」
丹羽は今大会初打席。県大会でもヒットはない。初球から積極的にスイングを仕掛けてライト線へのファウルになったのを確認すると、村田監督は再び「内野5人シフト」を指示した。
守りでプレッシャーをかけられた丹羽は一塁ファウルフライに倒れ、1番打者の駒瀬は見逃しの三振。3点差を追いつかれたものの、2度目のサヨナラ危機を切り抜けて、横浜は再び守りから11回の攻撃で、流れを取り戻そうとした。
しかし、今大会初登板となった県岐阜商の3番手の2年生左腕、和田聖也がそれを許さない。バントで一死二、三塁にされるもホームベースを守りきったのである。
試合後、藤井監督は、「1点が遠かったが、ゼロに抑えてくれた和田が本当に凄かった」と、代打策が不発でサヨナラを逃した自らの采配の狂いを救ってくれた左腕に敬意を示した。
激闘のフィナーレはその裏に待ち受けていた。
5回途中から救援登板して6イニング目に入っていた奥村は、先頭の稲熊にバントをさせず、空振りの三振に仕留めたが、続く内山の一塁ゴロで併殺を奪えず二死一、三塁となっていた。
県岐阜商は4番の坂口。ナインから「やれるぞ」と声をかけられた坂口は「絶対に打ってやろう」と打席に入ったという。
ストレート2球で追い込まれた。だが、144キロ出ていた奥村のストレートは139キロ止まり。球数は、70球を超え明らかに球威は落ちていた。カウント1-2からの4球目。
奥村は、「強い打球を打たせないために真っ直ぐで押した」と振り返ったが、高めに浮いたストレートを坂口は見逃さなかった。
コンパクトに逆方向へ振り抜き、少し詰まったがライナー性の打球をレフト前へ弾き返した。「その瞬間、鳥肌がわいた」
坂口は一塁を回ってから渾身のガッツポーズ。そして一塁側アルプスへ右手を掲げた。三塁走者が飛びはねながらサヨナラのホームを踏む。
4番の重責を果たした坂口は胸を張った。
「みんなでつないで取った最後の1点。誇りに思う。とても苦しい場面が多かったが、絶対にあきらめることなく、『絶対にやれるぞ』と、みんなで言いあった。試合前から『勢いはオレたちにあるぞ』と言いあっていた。それが存分に出た」
打たれた奥村は帽子を取り、その場にしゃがみこんだ。膝に手をつき号泣。キャプテンの阿部も涙が止まらなかった。阿部は、三塁側アルプスの応援団への挨拶でも涙がとまらず、両膝、両手をついて、勝てなかったことを詫びた。そのシーンがなおさら悲しみを深めた。
ここまで3試合を投げ、2完封を含め無失点だったスーパー2年生の織田翔希が立ち上がりに失点し、5回までに4点のリードを奪われるも、センバツ覇者の意地を見せて追いつき、2度のサヨナラ危機をしのいだ横浜が、最後は力尽きベスト8で散ることになった。