
「正直、監督1年目でここまでやるとは…勝因は岡田の遺産と藤川の学びだ」93歳の球界大御所が阪神の史上最速Vを語る…「巨人を始め他球団が弱すぎた」
岡田氏が期待をかけた前川は壁にぶつかったが、そのレフトのポジションを育成枠のように使い、高寺、豊田、中川、小野寺らにチャンスを与えた。
「選手を乗せることも上手なのだろう。岡田のときに2軍へ落とされ野球を学んだ森下、佐藤といった若手は、藤川の元でノビノビと力を発揮した。佐藤はいまだになんで打てているのかわからんが、彼らも岡田の厳しい環境の下での2年間があったからこそ、藤川の元で大きく伸びたのだ」
優勝の決まるゲームで、木浪をスタメンで使い、8回には追加点につなげる二塁打を放つなど、その起用のメリハリも、1年目の監督とは思えぬほど絶妙だった。
昨季の1、2軍の入れ替え数は、134回だったが、今季は199回。支配下登録70人全員で戦い、競争の原則を持ち込むことで、常に1、2軍のモチベーションを高め、コンディションを優先してきたことを示す数字だろう。
そして特筆すべきは坂本をメイン捕手に据えたことだ。
優勝インタビューで藤川監督は「どんな投手が出ても素晴らしい成績を残したというのはキャッチャーのおかげ」と捕手陣の奮闘をわざわざ口にしたが、坂本のリードは、テレビの解説に招かれた岡田氏を度々「ここでこのボールを使うのが、今年の坂本の配球の違い」と関心させるほど光った。逃げずに内角球を使いゾーンで勝負することを徹底していた。阪神の投手の能力を最大限に引き出した。
広岡氏は「勝ちながら藤川も監督として学び成長したんじゃないか」と見る。
4月20日の広島戦では、坂本が岡本に頭部に死球を受け、激怒した藤川監督がベンチを飛びだして、あわや乱闘の騒ぎとなり、5月16日からの広島戦3連戦の1、2戦目では、試合前のメンバー交換の際に目を合わせないなど不穏な空気を漂わせたことがあった。
広岡氏は「広島との試合で乱闘になりかけるような騒ぎを起こしたり、選手に背中を見せる監督の姿勢としては、間違ったことをしていた。監督たるものベンチで大全として構えていないといかん」とその指揮官としての態度に失格の烙印を押していた。だが、試合数をこなし、貯金を積み重ねていくうちに、藤川監督の指揮ぶりにも変化が見られたという。
次なる目標は日本一。だが1か月後にクライマックスシリーズが待ち受ける。
「この143試合というのはペナントレースという競技。ペナントを取るその1チームだけがチャンピオンですから我々がリーグチャンピオンです。この後のクライマックスシリーズというのは、私たちにとっては別のステージ。このリーグチャンピオンっていうのは絶対に消えない。この誇りを胸にまた別のゲームをみんなで戦っていきます」
最後に藤川監督のプライドがのぞいた。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)