
アフマダリエフは会見拒否…なぜ井上尚弥は「倒したくても我慢」を貫きコンプリートな判定勝利で1万6000人ファンを魅了したのか…知られざる苦悩と葛藤…1キロ軽かったモンスター
対アフマダリエフに絞って勝ちに徹するボクシングをスパーリングで作りあげた。井上が2023年に戦った元WBA&IBF世界同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)を招き、帝拳のWBOアジアパシフィック・フェザー級王者でWBO同級4位の藤田健児、日本バンタム級王者でWBA世界同級4位の増田陸、WBOアジアパシフィックスーパーバンタム級王者でWBA同級8位の村田昴、OPBF東洋太平洋フェザー級王者でWBC世界同級5位の中野幹士ら4人の次期世界王者候補とスパーを重ねた。
アフマダリエフの武器を分解した上で一人一人にあてはめてテーマを作り「すべてをパーフェクトに消化した」と真吾トレーナー。タパレスにはパワー、村田には、小さいパンチへの反応とスタミナ勝負、増田には左ストレート、そして「頑丈で一発一発パンチを打ってくるスタイルで最もアフマダリエフに似ていた」という中野を最終スパーの相手に選んだ。
この4人のうち、あるボクサーをボコボコにすると、真吾トレーナーがブレーキをかけた。アフマダリエフ戦での「我慢」をここでも実践させていた。
しかも、13年ぶりに帝拳への出稽古を2日間、敢行した。
井上は、個人的にも親交のある帝拳の元2階級制覇王者、粟生隆寛トレーナーに「何か気付いたことがないかな?」とアドバイスを求めた。
「これまで一度もそんなことを言ったことがないのでビックリした」と粟生トレーナー。
モンスターは最強挑戦者を迎えるにあたって環境を変えて刺激を求めた。強くなりたい…その一心で第3者の声にも真摯に耳を傾けようとした。そこには世界の頂点を極めている男ゆえの孤独や苦悩が見え隠れする。
井上と帝拳4人衆とのスパーのすべてがパーフェクトだったわけではない。被弾もあった。粟生トレーナーは2点アドバイスをした。
「攻撃に入るときに直線的になる。簡単に入れるときこそフェイントを入れたり丁寧な工夫を試みてはどうか」
アフマダリエフが狙ってくるカウンターの対策。
そしてもう1点が右のガードの位置。
「もう2センチ前に出してみたら」
粟生トレーナーは、「井上チャンピオンがどう受け取ったかはわからないけど、貪欲に強さを求める気持ち、そしてすべてが足の親指、足首からきている『でんでん太鼓』のような理想的な体の使い方、動きをうちの選手にも見習ってもらいたい」と言った。
井上は「フルトン戦、ネリ戦。あるいはそれ以上」と評した最高のモチベーションと、正真正銘の「過去一」と、自負するコンディションを作りあげて、最強挑戦者に「勝ちに徹するボクシング」を有言実行した。
そして最後の最後に細心の準備も怠らない。スピードとステップを重視するため、当日のリカバリーは、約6.2キロプラスの61.5キロに抑えた。過去最重量は1月のキム・イエジュン戦の62.9キロで約7.6キロ戻しだったが、1キロ以上軽いモンスターでリングに上がっていた。