
「もう誰も上沢への批判や甲斐の穴の話をしなくなった」なぜソフトバンクは苦難を乗り越えて連覇を果たしたのか…「失敗を力に。小久保監督の思考も変化した」
ブルペンのピンチは、藤井、松井、杉山の“藤松杉”の「樹木トリオ」が救った。杉山は防御率1.86で30セーブ。セーブ失敗は一度もなかった。松本裕は防御率1.07で44ホールドポイント。51試合を投げた藤井も防御率1.44である。小久保監督は「本当に功労者。お疲れ様と言いたい」と、3人に感謝の意を伝えた。
池田氏は「昨年の優勝とはまったく違う。ソフトバンクという球団の組織力と、小久保監督の失敗を力に変える思考の変化がもたらした勝利ではなかったか」と分析した。
「4軍監督に高校野球で監督をしていたOBの大越基氏を迎え、フェリペナテル投手コーチを入れて、底上げのできる体制を固め、3軍が斉藤和巳監督、2軍が松山秀明監督と、しっかりと連携を作り、城島健司CBOが、俯瞰で組織を見て統括してきたことが大きい。戦力補強を軸にしていたチームから本来目指していた育成の形が実を結んだシーズンだった」
30億円補強で金満球団と呼ばれた時代の優勝から中堅選手が覚醒しての育成球団として優勝をつかみとった。
今季も1軍の大きな戦力にはならなかったが、山本、川口、宮崎と3人の育成選手を支配下登録している。
そして「小久保監督の姿勢や考え方も去年に比べて明らかに変わった」というのが池田氏の見解だ。
「去年まではいいものはいい、悪いものは悪い、で言い方は悪いが、競争の原理を徹底して結果の出ない選手は切り捨てていた。でも今年は違った。結果の出ない選手も辛抱強く見守り、再チャンスを与えて失敗を成功につなげればいいという考え方に変わっていた。主力がいなくなってそうせざるを得ないというチーム事情があったのかもしれないが、これまで伸び悩んでいた中堅選手の覚醒には小久保監督の考えの変化もあったと思う」
組織のテコ入れも小久保監督の考えに変化を与えたのかもしれない。
チームは5月3日から、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチ、長谷川勇也R&Dグループ・スキルコーチをベンチ入りさせた。
「試合に出ていなかった選手は当然ミスが起きる。落ち込み、プレーに影響するだろうが、ベンチで伴氏が失敗をポジティブな思考に変えるためのフォローをした。これまで1軍のコーチは技術を教えず、データ指示だけというメジャー方式のスタイルを取ってきたが、技術的なアドバイスも入れるようになった。そういう組織のテコ入れが最終的に、野村、柳町、牧原、川瀬らの覚醒につながった」と池田氏。
開幕前には2つの問題がチームを悩ませた。
チームの司令塔の甲斐のFAによる巨人移籍と、日ハムからポスティングでメジャーに挑戦した上沢を1年で古巣ではなくソフトバンクが獲得した問題である。