
窮地を救ったバントシフト「ホイールプレー(ブルドッグ)」は70年前に巨人が取り入れたバイブル「ドジャース戦法」だった
そのベッツも興奮が冷めやらない。
「私たちは前に学んでいた。前にエンゼルス戦でやったことがある。その時に(ミゲル)ロハスに教えてもらったんだ。『このプレーはどういう時に使うんだ?』と聞くと、彼は『生きるか死ぬかの場面で使うプレーだ』と。まさに今回がそうだった。それを信じてやっただけ。ロハスのおかげだよ」
ロハスは、ベッツがコンバートされる前の元遊撃手。8月13日の敵地でのエンゼルス戦でも「ホイールプレー(ブルドッグ)」に成功している。だが、この時は無死一、二塁。このシフトは一塁のピックアッププレーにも使えるので、封殺できる状況で使われることが多く、今回のような無死二塁の状況は異例だった。
フリーマンも試合後の会見でこう明かす。
「数週間前にホイールプレーの話をしていた。あの状況であれを実行することは、我々の頭の中にあった。マウンド上で確認した。絶好のタイミングだった。我々も興奮した。マックス(マンシー)とムーキー(ベッツ)のプレーは絵にかいたように完璧だった」
ベシアへの交代でマウンド上に野手が集まった際に、ロバーツ監督を交えて、このバントシフトの実行を確認していた。ロバーツ監督はマンシー、ベッツと何度も言葉を交わしていた。
ロバーツ監督は「スポーツネットLA」が伝えた試合後会見の中でこう説明した。
「あれは即興のプレーだった。特に(春季キャンプでも)練習はしていない。私はムーキーに『ストットはバントが上手いからホイールプレーをやろう』と伝えた。ムーキーとマックスの2人はよく実行してくれた。かなり難しいプレーだが、彼らは簡単そうにやってのけた。あの瞬間、あれが勝つための唯一のチャンスだったと思う。ムーキーが動きをギリギリまで隠した。普通なら、ああいうサードでのタッチプレーは滅多に起きない。カステリヤスよりムーキーは速かった。難しいプレーを冷静にやりとげた」
一死一塁となった後にベシアは、ハリソン・ベーダ―にレフト前ヒットを打たれた。もしバントシフトが成功していなければ同点に追いつかれるところだった。ロバーツ監督は、二死一、三塁になってようやく佐々木を投入。佐々木が首位打者のトレイ・ターナーをセカンドゴロに打ち取りゲームセット。まさに窮地を救うビッグプレーだった。
実は、このバントシフトはドジャース伝統のプレーだった。
1954年にアル・カンパニス氏が、1940年代後半からブルックリン・ドジャースが培った戦術、戦略をまとめた「The Dodgers’ Way to Play Baseball(ドジャースの戦法)」という本を出版した。そこには、バントシフトについての細かく記述もあった。まさにドジャースのバイブル。ドジャースでは、新人教育のための教材として1998年まで使われていた。日本でも紹介され、ドジャースにスタッフなどを視察のため派遣していた巨人は、水原茂監督が、その「ドジャース戦法」を参考にし、川上哲治氏がそれを実践してV9を果たしたことで知られる。まさに70年の時を超えて伝統の「ドジャース戦法」がディビジョンシリーズ第2戦の大一番で蘇ったのである。