世界初挑戦の那須川天心は元WBA王者の井上拓真に勝てるのか…公開スパーから判明した天心の「狙い」と「戦略」を読み解く
例えばあえて自慢のスピードを落として相手との誤差があまり大きくならないように工夫しているという。
「相手よりむちゃくちゃ速く動くと、リズムが違いすぎて最終的には合ってくる。ちょっとだけ速かったり遅かったりして、ちょっとずらすとなんか心地悪いな、違和感あるなという状態になる。それを作ることを自分の中でやっている」
かなりの高度テクだ。
それでも「完璧なものがない。完璧だと思えば格闘技を辞めている。次が完璧だと思うから長くやっていける。完璧なものはないが納得できるものがある」と言う。
公開スパー後に視察に訪れた大橋陣営の3人が取材に応じた。
揃って天心の「万全の仕上がり」を称えた。
天心自身が残り3キロを切っていると明かした通り疲労はピーク。その部分を差し引けば、コンディションに問題はない。なにしろ“世界一”のトレーナーがバックについている。天心は、この2年半、本田会長の紹介でドジャースの山本由伸が師事して、あのワールドシリーズ第7戦での“中0日リリーフ”を可能にした柔道整復師でトレーナーの矢田修氏の指導を受けている。
「矢田さんの稽古をやっていたら必然的に(世界一に)なる」
フィジカルとコンディションには絶対の自信がある。
北野トレーナーはスタイルの変化に目をつけた。
「スタイルが変わっているな、新しいことにチャレンジしているな、という新たな発見があった。変則というか、ボクシング、ボクシングしていない。わざと変えている。それが試合にどう出るのかわからないですが」
天心は「自然にそうなった」を強調したが、確かにボクシングの型にはまったような堅苦しさはなく、ややアップライトで自由奔放に動いていた。重心も前重心から真ん中へ移動しているようにも見えた。キックの要素が含まれたスタイルだ。
分析には定評のある浩樹も意味深なことを言った。
「大胆に踏み込んで打ったりしていた。ああこういう狙いなのか、とスパーとミットを見てなんとなくイメージができた。(狙いが何かは)ここでは言いません(笑)。前の手で駆け引きをしながらドンといく。あれが本当の狙いかどうかはわからないけれど」
公開スパーで見えた天心の「狙い」とは何か。
帝拳OBで、元3階級制覇王者“精密機械”ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)とラスベガスで戦った男として知られる元OPBF東洋太平洋ライト級王者の中谷正義氏(現在・大阪の吹田市で中谷ボクシングフィットネスクラブを経営)に、公開スパーの映像を見てもらった上で、まず、その大橋陣営の発言の真意を分析してもらった。
「確かにスタイルが変わっていましたね。ボクシングの型にはまらず柔らかくなっていた。そういうキック的な詰め方をされたら、そういう選手とやったことのない井上拓真選手は嫌でしょうね。ただ手の内は隠していましたね。相手が天心選手とのスパーを重ねる中で力の差をあまりにも感じて手が出なくなってしまうというのもありますけどね。でも狙いは見えましたよ」

