「ちょっと煽りすぎ」なぜ那須川天心は井上拓真とのWBC世界バンタム級王座決定戦の公式会見で筆者の井上尚弥に関する質問に答えずビッグマウスを封印したのか?
「(勝てば)今後の可能性が広がる。ベルトを獲ってスタートラインと思っている。そこから無限に可能性が広がる。日本のバンタム級は、強いチャンプがたくさんいる。やったら面白いというカードもたくさんある。まずしっかり倒す。勝ってから色々と言える。いま言っても説得力はない。メディアが(そういう発言を)欲しいのはわかるが、ちょっと待って欲しい」
いたって正論で真面目な回答だ。
天心の内側に潜む不安がビッグマウスを封印させたわけではない。
彼の人格の成長と同時に、ボクシングへのリスペクトがいらぬ挑発行為を避けさせ、それ以上の本音を語ることを封印させたのだろう。
天心の言葉通り、もし世界王者になることができれば、統一戦が目標になるし、12月のノニト・ドネア(フィリピン)戦を控えているWBA世界同級王者の堤聖也(角海老宝石)やWBO世界同級王座から陥落した武居由樹(大橋)らとの好カードが待っている。
天心は「井上拓真選手はボクシングそのもの」「ボクシング界と言えば、井上兄弟がすぐ出てくる。その概念を壊していきたい。そういうものと戦っていきたい」とも発言してきた。それは、一部の井上ファミリーファンを敵に回した。天心はそのことにも触れた。
「ボクシング壊す、とはあまり言っていない。そこを切り取られるけど、壊すよりも、伝統、文化を大事にしながら、新しいものを作るのが僕の仕事、役割、テーマ。ボクシングというものにこういうやりかたがある、見方があるよ、と変えていきたい。ずっとボクシングを見ている人は、那須川天心を敵と思っているのかもしれないが、案外、味方なんです。案外仲間。最後は手を取りあって、那須川天心やるじゃん、みたいな調和をしたい。アンチヒーローって感じですね」
試合のコスチュームなどは、会見で着用していたジャージと同じくグリーンに統一するが「パーソナルカラー。調和のグリーン」と説明を加えた。
一方の拓真には、その井上家を巡る天心発言についての気持ちを聞いた。
「天心選手が言っていた“井上家をぶっ壊す”については、そこまで意識をしていない。知名度のある天心選手に初黒星をつけて、ファンの期待に応える。しっかりと倒しにいきたい」
関係者席には井上尚弥が目立たぬようにいとこで元WBOアジアパシフィック、スーパーライト級王者の井上浩樹と一緒に座っていた。ビッグファイトの計量には、度々、チーム拓真の一員として来ることはあったが、会見にまで顔を見せるのは記憶にない。真吾トレーナーと、井上家として、団結して“打倒天心”に向かうという姿勢の表れなのだろう。
天心は「勝てば時代を変えることができる」とも言った。
一方の拓真はその発言にこう対抗した。
「自分も盛り上がるカードをやりたいと思っていた。申し分のない相手。ここをしっかりと勝って、世間をあっと言わせたい。時代が進むというよりも、井上拓真が戻ってきたという感じですかね」
この戦いは2人が持つ格闘イデオロギーの戦いでもある。
23日の前日計量を経ていよいよ3日後に運命のゴングだ。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

