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拓真の右ストレートが天心に炸裂した(写真・山口裕朗)
拓真の右ストレートが天心に炸裂した(写真・山口裕朗)

なぜ井上拓真は文句無しの3-0判定で那須川天心との名勝負を制することができたのか…兄尚弥と「反対していた」父真吾トレーナーとの知られざる葛藤と家族の絆

 プロボクシングのWBC世界バンタム級王座決定戦が24日、トヨタアリーナ東京で行われ、元WBA世界同級王者で同級2位の井上拓真(29、大橋)が3-0判定で同級1位の那須川天心(27、帝拳)を下して王座に返り咲いた。父で専属トレーナーの真吾氏(54)、兄のスーパーバンタム級4団体統一王者、井上尚弥(32、大橋)の井上家が、葛藤を乗り越えて団結し、勝ち取った勝利だった。

ずっと声を出し続けていた兄の尚弥が祝福(写真・山口裕朗)

「オッシャー!」
 試合終了を告げるゴングが鳴ると拓真は雄叫びをあげてコーナーへよじ登った。
 判定結果を聞くまでもなく勝利の確信があった。真吾トレーナー、そして兄の尚弥と抱き合い、一方の天心は、両手でコーナーのロープを持ち下を向きうなだれた。
「116―112」が2人、そして1人が「117―111」。正式にジャッジペーパーが読み上げられると、拓真は、左手をあげ天心は納得したかのように拍手を送った。
「やりました。戻ってきました」
 場内マイクで拓真は9227人で埋まったファンに勝利を報告した。
「ほっとしている。ベルトが戻ってきたというより、天心に勝てたこと、それが大きな喜びです」
 ベルトの色は変わったが、2024年10月に堤聖也(角海老宝石)にWBA世界同級王座を判定で奪われて以来の王座復帰となった。だが、そのことより、天心にプロ初黒星をつけたことが嬉しい。
 スタートは最悪だった。天心の遠い距離にパンチが届かず、第1ラウンドの終了間際に左のストレートを食らい、2ラウンドには右のカウンターフックを浴びた。
「思った以上に距離が遠くて目がいい」
 拓真は面食らった。
 大橋会長は「強いパンチを浴びた。前回よりも数段強くなっている。厳しいんじゃないか。不安が第一にきた」という。
「出だしが堅い」と思った真吾トレーナーは「リズムを取っていこう」と指示。共に花道を入場して、試合前のコールでは、両手でファンの声援を煽った兄の尚弥は、「警戒しすぎるな」とアドバイスを送った。
「1、2ラウンドのペースならポイントが取れない。ペースを変えて相手を崩す。いろんなパターンを想定していた、自分から攻めるパターンに切り替えた」
 想定内だった。
 切り替えた。
 3ラウンドからフェイントと、サイドへの小さなステップを使い、距離をつめた。ノーモーションの右ストレートが何発もヒットした。4ラウンド終了時点の公開採点は、3者共に「38-38」のドロー。
 不安を抱いていた大橋会長は「若干負けているかと思ったが、同点だったので、これならいけるなと。厳しいが、これなら勝てるの確信に変わった」という。
 拓真も「1ポイント取られているかと思っていたがドローだった。自分のペースになりつつあった、このまま上げていけば、いけるという自信があった」との感触を得た。
 これこそが試合後に天心が認めた「経験の差」だった。
 チーム拓真の一員として、ジャージを着て、コーナーの下で応援していた元WBO世界同級王者の武居由樹は「引き出しの多さが拓真さんが圧倒的にあった」と驚いていた。
 その言葉通りに拓真の攻勢が続く。天心も足を止めて戦わざるを得なくなった。拓真は右だけでなく、リターンを必ず打ち込み、すぐさまポジションを変える。手詰まりになった天心がワンツーの攻撃一辺倒になると、体を沈め、その左に何度も空を切らせた。
「練習の時からやってきたことを自然に出せた。体が反応した感じ」。
 7ラウンドにはコーナーに突き飛ばされ転倒。レフェリーが天心に注意を与えると場内は大ブーイング。拓真のそのファイトは観客を味方につけていた。8ラウンドが、終わった時点の採点は、メキシコ人だけが「76-76」とつけたが、「78-74」「77-75」と2人が拓真を支持。
「このままいけば絶対にいける」
 拓真の自信は確信に変わっていた。

 

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