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このフェイスオフの時のピカソの目が泳いでいたという(写真・Matchroom Boxing/Mark Robinson)
このフェイスオフの時のピカソの目が泳いでいたという(写真・Matchroom Boxing/Mark Robinson)

井上尚弥サウジ防衛戦の真実①「ピカソの目が泳いでいた」…大敗なのにメキシコの挑戦者がガッツポーズをした裏にあったのは…

 井上は今回のピカソ戦で世界戦27戦連続勝利の新記録を打ち立てた。ジョー・ルイスとフロイド・メイウェザー・ジュニアの大記録を抜いたわけだが、過去に戦う前からここまで恐怖心を見せた相手はそうはいなかったという。この時点でピカソはもう猛獣の檻に放り込まれたうさぎの感覚になっていたのだろう。
「尚のKO率の数字もそうだけど、インパクトのある派手な倒し方もしてきた。映像を見て相当な恐怖があったんでしょうね」
 そのピカソの目の泳ぎは一方でガチガチのディフェンスオンリーのボクシングになることを予告していた。
 真吾トレーナーはさらにこう続けた。
「周りの“何ラウンドに倒される”という声も耳に入っていたんでしょう。勝ち負けよりも絶対に倒されないことだけを考えていたんでしょうね。倒されなくて頑張れた。それで“オレは最後まで倒されなかったぞ!”と嬉しかったじゃないですか。じゃないと、あれだけハッキリとしたワンサイドでやられてあんなに喜べないでしょう。でもそれはボクシングじゃないですよね。尚の“リスペクトを感じない”という発言は、勝負としての負けを認めてない態度に“この野郎”と思ったんじゃないですか」
 井上の32戦のキャリアで、相手が守りを徹底して倒すのに手こずった試合はこれが初めてではない。
 2021年12月のアラン・ディパン戦は、屈強なムエタイ戦士が井上のボディ攻撃に耐えるため、何百発もボディを打たせる訓練を積み、研究を重ねたエルボーブロックでモンスターの猛攻撃に7ラウンドまで耐え抜いた。だが557発ものパンチを浴びせた井上は、8ラウンドに左右フックの3連発で吹っ飛ばしてTKO勝利した。
 バンタム級の4団体統一がかかった2022年12月のポール・バトラー戦もそうだった。亀のようになったバトラーに対して井上は両手を後ろに回して顔を突き出す驚きの“挑発”までしたが、まったく攻めてこなかった。それでも11ラウンドにブロックの隙をみつけて左ボディをめりこませて、バトラーは腰を落とした。
 いくら力の差があっても世界王者まで上り詰めてきた相手に守りだけに徹せられたら、モンスターであっても倒すのは容易ではない。しかも、これはバンタム級での2試合。スーパーバンタム級になると、より相手の耐久力は増す。さらに守りだけの相手を崩すのは難しい。
 それでも井上と真吾トレーナーは、ピカソがそうなることを予測して「崩す方法」を何度もシミュレーションしてきた。
 だが、結果的に井上はそのプランを井上は実行できなかった。いや狂わされた。モンスターは感情を持たないマシンではなく人間だった。そのメンタルをかき乱す予期せぬ事態が待ち受けていた。
 試合前の控室。
 苛立つ井上が日本人の女性通訳に言った。
「そいつを追い出して!」
 SNSで話題となったバンテージへの“いちゃもん事件”である。
(次回掲載②に続く/文責・本郷陽一/RONPSO、スポーツタイムズ通信社)

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