「自分をコントロールできなくなっていた」井上尚弥が最後まで使わなかったディフェンス一辺倒“ピカソKO”の秘策…真吾トレーナーが「尚の試合ではない」と苦言を呈した真意とは?
第1ラウンドのゴングが鳴った。
ガードを高く掲げたピカソがプレスをかける展開となったが、井上はジャブを散らしながら様子見。すでにすべてを見切ったようだった。
「溜めてショートね。ショート」
コーナーで真吾トレーナーは「ショート」と繰り返して「大振りにならないこと」を注意し「どうだったパンチは?」と聞くと井上は「大丈夫」と一言答えた。ピカソの実力はもう把握していた。
第2ラウンドには5連打、4連打を浴びせ、ガードの横から側頭部にフック、左ボディをめりこませるなど、井上がペースをつかむ。もうフィニッシュは、時間の問題のように思えた。対するピカソ陣営ではトレーナーが、「正面に立つな」と言い聞かせていた。
真吾トレーナーは「ピカソのすべてが想定通りだった」という。
「ジャブも、ボディも事前にチェックしてイメージしていた通りの軌道とタイミングだったんです」
もちろんピカソがガードを固めてディフェンス一辺倒で攻めてこないことも予想していた。だが、ピカソの“鉄のカーテン”を突破する秘策を準備していた。
「本当はそのジャブをダッキングしてアッパーを入れることをやっていた。ボディに対してもエルボーブロックで防ぎアッパーを返す作戦だったんです。でも尚はそれを一発も出さなかった。もしそれを出していれば、アゴにダメージを与えて違う流れを作れたんです」
亀状態の相手にはアッパーが有効で、ピカソがディフェンス一辺倒になったとしても、まったくパンチを打たないはずはなく、そこにカウンターのアッパーを打ち込むというKO戦略を立てていたのだ。
だが、井上は、その秘策を最後まで温存したままだった。いや出さなかったと言ったほういい。
中盤も井上が試合を支配。5ラウンドにはフックのカウンター、6ラウンドにはロープに張り付けて連打を浴びせ、7、8ラウンドにはノーガードで挑発したが、ピカソのディフェンスを崩せなかった。9ラウンドには強烈なボディショットを打ち込んだが、真吾トレーナーは、いつもの組み立てができていないことが不満だった。
「上に捨てパンチを入れて、ガードを上げさせてから、腹を打っていれば、ダメージが蓄積される。そこに持っていきたかったんですが、感情的になって、上に強いパンチを狙って打っていた。確かにピカソは、打たれ強さはあった。ガードの隙間から側頭部を打っても頑張っていた。でも効いているなという感触はあったんです。ピリっとした丁寧な組み立てをしていればいい流れでフィニッシュはできたんです」

