
アフマダリエフは会見拒否…なぜ井上尚弥は「倒したくても我慢」を貫きコンプリートな判定勝利で1万6000人ファンを魅了したのか…知られざる苦悩と葛藤…1キロ軽かったモンスター
プロボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(32、大橋)が14日、名古屋のIGアリーナでWBA世界同級暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(30、ウズベキスタン)と防衛戦を行い3-0判定勝利した。2019年11月のノニト・ドネア(フィリピン)戦以来の判定勝利で、ダウンシーンはなかったが、固いガードとステップワークで最強挑戦者のパワーを封じ込み、緊迫感のある12ラウンドで1万6000人の観客を沸かせ「100点」と自己採点をした。次戦は12月にサウジアラビアでのWBC1位のアラン・ピカソ(25、メキシコ)戦。それをクリアすると、いよいよ来年5月には中谷潤人(27、M.T)との東京ドームでのスーパーマッチだ。
最後まで華麗に舞ったステップワーク
挑発には乗らない。9ラウンドだった。
井上がワンツーから左フックのコンビネーションブローを叩き込むも、それ以上の追撃をやめると、アフマダリエフが「打って来い!来い!」と両手でジェスチャーした。1月のキム・イエジュン(韓国)戦でも同じシーンがあった。「むっとした」という井上は、一気にラッシュしてキム・イエジュンにKO勝利。だが、この日のモンスターは違っていた。
「今日は我慢というものが自分の中でテーマだった」
右のカウンターのアッパーを放つが、決して深入りはしない。
井上はインターバルでの真吾トレーナーの指示の内容を明かす。
「いいんだよ、このままでいいんだよ」
「いきすぎるな」
「しっかりと出入りのボクシングと、ポイントをピックアップしていくボクシングをやれと言われていた。それをしっかりと守ってやった」
鉄のようにガードを固めてのジャブからの右のボディストレート。詰められると、華麗なステップワークでポジションを変える。アフマダリエフが前に出て、右を振り回し、左ストレートを伸ばしてくると、ステップと、ボディワークで外し、左フックや右のカウンターブローをヒットさせるが、強引にプレスをかけて倒しにいくことはしなかった。
6ラウンドには、右アッパーから左のボディアッパーという意表を突く連打を2度もクリーンヒットした。アフマダリエフの動きが止まったが、その必殺の連打で、追い込むこともしなかった。
「KOシーンを作ろうと思えば作れたシーンはいくつかあったと思うがそこはアフマダリエフも実力者。自分がそこで倒しにいこうと思えば、また違った展開になっていた可能性というものもある。今日はこの判定で勝つというボクシングをチョイスして良かった」
だが、本音も明かす。
「倒しに行かないことが、これほど難しいんだなという発見はあった」
知られざる葛藤があった。
昨年5月のルイス・ネリ(メキシコ)戦で1ラウンドにダウンを喫し、今年5月にはラスベガスでは、ラモン・カルデナス(米国)に左フックのカウンターをもらって生涯2度目のダウン。真吾トレーナーは「一度、尚と話し合いをしたい」と打ち明けた。
「格下の相手に、内容で見せなければならない、という責任感みたいなものが出て、無理に力でねじふせにいっていた。そういう戦い方をすると被弾があるんです。丁寧に順番にボクシングをすればもらわないのにね。井上家のボクシングはそれじゃない。アフマダリエフみたいなテクニックのある相手にそれをやると怖い」
真吾トレーナーは、「判定でいい。力任せはダメなんだよ」と機会を見つけて息子の心に訴えかけた。
井上尚弥限界説も耳に届いた。
「衰えがあればダウンから盛り返すことなんかできない」
我が子の実力を信じているからこその苦言だった。
井上は、その父の言葉を胸に刻み、カードの発表会見で「今回は判定決着でいいと思っている」と発言した。