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8ラウンドにフルトンを倒した井上尚弥が吼えた(写真・山口裕朗)
8ラウンドにフルトンを倒した井上尚弥が吼えた(写真・山口裕朗)

なぜ井上尚弥は戦慄TKOで“最強”フルトンに勝てたのか…頭脳戦で仕掛けた巧妙な“罠”と「必ず当たる」秘策とL字ガード

 プロボクシングのWBC&WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチが25日、東京の有明アリーナで行われ、元バンタム級世界4団体統一王者で挑戦者の井上尚弥(30、大橋)が王者のスティーブン・フルトン(29、米国)を8ラウンド1分15秒にTKOで下して新王者になった。井上は日本人初の2階級2団体統一王者、日本人2人目の4階級制覇の偉業を成し遂げた。試合後には井上がリングに呼び込んだWBAスーパー&IBF世界同級王者のマーロン・タパレス(31、フィリピン)が対戦を熱望。年内にも4団体統一戦が行われる予定だ。

 フルトン「左のボディジャブが見えなかったんだ」

 

 有明アリーナに地鳴りが響いた。
 8ラウンド。井上は「必ず当たると練習してきた」という秘策を繰り出す。
 目でフェイントをかけてから体を沈めての左のボディジャブ。続けて右ストレートがヒゲで覆われたフルトンの顎を捉えた。
「左のボディジャブが見えなかったんだ」
 最初の一撃で腰を折りガードを下げたところに用心していたはずの一発を浴びたフルトンは、あまりの衝撃に横を向き、キャンバスに手をつきかけた。バランスを崩した死角に追い打ちの左フック。フルトンはエプロンから頭が半分飛び出たほどの勢いで仰向けになってダウンした。2団体統一王者のプライドを胸に立ち上がってきたが、井上はコーナーに詰め嵐の10連打。最後は左フックが炸裂し、腰から落ちたところで、レフェリーが割って入った。
 1万5000人で埋まった観客が一斉に立ち上がって叫ぶ。
「ナオヤ、ナオヤ!」
 衝撃TKOで新王者となった井上はコーナーに駆け上がり何度も胸を叩いた。
「僕が思うスーパーバンタム級最強のフルトンを倒すことができた。(この階級で)最強と言えるんじゃないか。最高の日になりました」

 ゴングと同時にフルトンの度肝を抜いた。
 左ガードを下げて構えるL字ガード。器用な井上は、過去にもこのスタイルで揺さぶりをかけたことがあるが、1ラウンドのスタートからガードを下げたのは記憶にない。
「フルトンのスタイルを研究している中でL字ガードが使えると思った。対峙したときに絶対にペースを握らせないのが作戦だった。L字をぎゅっと固めて圧をかける。ただ右のパンチをもらわないことには気をつけて」
 この試合のポイントは距離だった。
 身長で4センチ、リーチで実に8センチも優位に立つフルトンは、ロングレンジとクリンチを多用した密着戦を使い分けてポイントアウトを重ねていくのがスタイル。
 試合後、井上は「距離感を自分がつかむ、ペースをとる、そこだけは徹底した」と打ち明けている。そこでフルトンが距離の把握に困惑するL字を採用したのである。
 ジャブの差し合いで井上の左が先に当たった。リーチ差を考えると井上が不利のはずが、逆に左の攻防で圧倒したのだ。米データ会社「CompuBox」の調べによると、このラウンド、フルトンは、18発のジャブを繰り出して当たったのはたったの1発。対する井上は10発のジャブを放ち5発が的中していた。ガードの上からだが、右のパンチも届き、フルトンが明らかに怖気づいていたのがわかった。ステップバックを多用して下がるシーンが目立つ。
 1ラウンドを終えてコーナーに帰ってきた井上に真吾トレーナーは「気を抜くな」との声をかけた。
 なぜか? その1ラウンドの攻防で真吾トレーナーは「いける」との手ごたえを持っていたのである。
「遠い距離からパンチを届かせる作戦も用意していたが、それをやる前にリードが届いたんでビックリした。逆に向こうのパンチは届かない。やりやすかった。本人もそう感じたと思う。だから気を抜くなと」

 

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