
「馬を信じ自分を信じ。すべてに意味が」1番人気クロワデュノールと北村友一騎手の日本ダービー制覇の裏にあった“大河ドラマ”…背骨を8本折る騎手生命危機を乗り越えて
確かに、ここに至るまでの騎手北村友一の道のりを考えると、大河のような長編物語になる。2006年にデビューし、若手のホープとして台頭。その一方でケガにも悩まされ、ときに勝ち気な面からトラブルを起こすこともあった。それでも中堅となり、斉藤調教師が管理するGⅠ4勝馬のクロノジェネシスと出合い、トップジョッキーの一員に。しかし、何という運命のいたずらか。結婚もし、人生の絶頂期ともいえる2021年5月に落馬で背骨を8本骨折。騎手生命が危ぶまれるほどの重傷を負った。
「起き上がるまで2カ月。8カ月はジョギングもできなかった」と明かしたほどで懸命のリハビリの末、22年6月に復帰した。だから「ひと言でいうと」というアナウンサーの言葉にすぐには返せなかった。
「ひと言では表せないのですが、ここに至るまでの過程すべてに意味があったのだということを感じています。こうしてすべて巡り合わせで勝たせていただいて、クロワデュノールとの縁があったこと、全部つながっているのだなと感じます」
昨年6月、出合ったのが大物感を漂わせるキタサンブラック産駒だ。新馬戦を好時計で快勝し、調整途上だった東京スポーツ杯も快勝。続くGⅠホープフルステークスも勝ち上がり、陣営も周囲も三冠を意識した。そんな中、無敗で迎えた皐月賞で不利もあって2着に惜敗。しかし、年明け2戦目となる日本ダービーを前に北村騎手が3週連続で追い切りに騎乗し、定石通りに状態をアップし、大一番を整えた。もっとも、このローテーションはダービー制覇を意識してのもの。
「休み明けを使って東スポからポープフルと、休み明けを使って皐月賞からダービーというのは、ほぼ同じ間隔。当初からの狙い通りでした。皐月賞は残念でしたし、申し訳ない気持ちでしたが、ダービーを勝ててホッとしています」と斉藤調教師は話す。勝利の裏にはダービートレーナーに値する戦略があったというわけだ。
もちろん北村騎手とクロワデュノールの大河ドラマはこれで終わりではない。
「クロノジェネシスにも最後まで北村さんに乗ってほしかった思いはある。この馬で再び」と斉藤調教師。北村騎手も「まだまだ伸びしろを感じる。クロワの名前が世の中に知れ渡ってほしい」とさらなる飛躍を期待する。
すでに10月5日のフランスGⅠ凱旋門賞へ登録済み。「ひとつの選択肢として」と斉藤調教師としているが、大河ドラマはパリのロンシャン競馬場へと続く。