
王者が3人乱立の異常事態!井上尚弥と2度戦った42歳のドネアが負傷判定でWBA世界バンタム級暫定王者に返り咲くも階級が下の相手に”仕組まれた”復帰舞台?!
プロボクシングの5階級制覇王者のノニト・ドネア(42、フィリピン)が14日(日本時間15日)、アルゼンチンのブエノスアイレスでWBA世界バンタム級暫定王座決定戦に臨み、同級8位 アンドレス・カンポス(28、チリ)に9回負傷判定で3-0勝利した。スーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(32、大橋)と2度戦ったドネアは、2023年7月のアレハンドロ・サンティアゴ(29、メキシコ)とのWBC世界同級王座決定戦で判定負けして以来、約2年ぶりの復帰戦を飾った。42歳とは思えぬボクシングをしたが、相手のカンポスはフライ級、スーパーフライ級を主戦とする選手で体格差は明白で、ダウンシーンは演出できなかった。またWBAは正規王者だった堤聖也(29、角海老宝石)が目の手術で休養王者となり、正規王者に昇格したアントニオ・バルガス(28、米国)は7月30日に横浜BUNTAIで元WBC世界フライ級王者、比嘉大吾(29、志成)の挑戦を受けるが、3人の王者が乱立するという異常事態となっている。
偶然バッティングにより9回負傷判定
レジェンドの復帰戦の結末はあっけなかった。
9ラウンドだ。
ここまでポイントで大劣勢のカンポスが勝負をかけて前に出てきた。だが、右のパンチを放つ際に同時に頭を突きあげて、その“第3の凶器”がドネアの右目付近を直撃。右目上をカットしたドネアは流血し、目の周りがみるみる腫れあがってきた。ドネアは自らレフェリーに「目が見えない」と訴えて、試合が中断。レフェリーは、リングサイドのドクターの意見を聞き、試合続行不可能と判断してストップを宣告した。偶然のバッティングによるストップのため、止められたラウンドを含めた判定で勝敗が決められることになった。
88―83、87―84、87―84の3-0判定。その瞬間、ドネアは両手をあげて喜びを表し、敗れたカンポスは完敗を認めて拍手を送った。
「このようなことが起きてしまったことは残念だ」
不完全燃焼のドネアの右目はすっかり塞がってしまっていた。
そして「私はアルゼンチンの人々に私の闘争心と戦士の精神を示したかった。次回は全力を尽くす。これは私の勝利であり、アルゼンチンの勝利でもある」との思いをアルゼンチンのファンに伝えた。
ドネアは1ラウンドに奇襲を仕掛けた。サウスポースタイルでプレスをかけたのだ。結末を暗示させるようなバッティングを浴びるアクシデントもあったが、カンポスの戦略の出鼻をくじいた。そして2ラウンドからオーソドックススタイルに戻すと、フェイントを駆使しながら、アグレッシブに攻めて、右フックでロープへ吹っ飛ばした。チャンスとみるや、左ボディで追い打ちをかけ、右のアッパーから左フックとワイルドにラッシュをかけた。
中盤はリスクを負わない省エネボクシング。鋭いステップバックで、常に距離をはかり、リードジャブでコントロールした。カンポスのパンチのほとんどを見切っていた。
エル字ガードから左右のカウンターを狙う“無言のプレッシャー”をかけるので、カンポスは前に出てこられない。業を煮やしたカンポスが、7回に突っ込んでくると、そこにショートカウンターを打ち込んでいく。2019年11月のWBSS決勝で井上と初対戦し、2ラウンドに眼窩底骨折を負わせた”伝家の宝刀”の左フックは、不発に終わりダウンシーンも演出できなかった。だが、逆にクリーンヒットの被弾もほぼなかった。スピードや迫力には欠けたが、その距離感やスキルには“レジェンド”の風格はあった。
辛口で知られる米専門サイト「ボクシングニュース24/7」は、「ドネアの勝利は、彼の理想や満足のいく方法からほど遠かったが、42歳でまだ戦えることを証明した」と評価した。
だが、これでWBAには、休養王者の堤、正規王者のバルガスに続き、3人の王者が乱立する異常事態となった。ファンの混乱を招いたことだけは間違いない。
WBAは、暫定王者が正規王者に昇格すると、すぐに暫定を作りたがる傾向にあるが、WBAの規定によると「正規の王者が怪我や病気、および何らかの理由で長期的に防衛戦を行えないときなどに暫定王者を設ける」とされている。