
井上尚弥がショックを受けた「ウエルター級の世界の壁」…なぜ佐々木尽はノーマンに5回失神KOで敗れたのか…見破られていた弱点、当日の体重差5.6キロ、巧緻性の違い
関係者によると、当日の体重は「5、6キロ違っていた」という。腹筋が8つに割れた分厚い肉体を披露したノーマンは、計量後に大幅に増量してパワーアップしていた。スーパーライト級時代に体重超過した苦い過去のある佐々木は、栄養士をつけて2か月前から体重をキープしていて、2週間前には、リミットまであと4キロ前後まで落ちていた。早すぎる減量は、同時に筋肉量も削り、リカバリーで体がでかくできないというデメリットもある。2階級も上のノーマンを相手にしたのだからパワーの差は歴然だった。
ノーマンは「そこまで効いたパンチはなかった。佐々木はタフガイで全身全霊できたが、全部のパンチを受けても大丈夫だった」と証言した。
解説を務めた村田氏が指摘するのは「正確性、巧緻性の違い」だ。
「パワー、フィジカルはそう日本人と世界の差はない。ただ階級が重くなればなるほどボクシングが雑になるのですが、ノーマンのような一流のボクサーほど正確にピンポイントで打ってくる。最初のダウンも後頭部を狙って打ち込んでいます。つまり自分の体を思ったように動かす能力がズバ抜けているんです。巧緻性です。これはセンスであり幼少期の体験が影響するのですが、バランスの取れたトレーニングで身につける可能性もあります。ノーマンから学ぶのはそこでしょう」
佐々木は担架で救護室へ運ばれ、会場に待機していた救急車両で病院に搬送された。中屋一生会長によると、CT検査などで出血などの異常は見られず、意識はハッキリしているが、倒れた際に後頭部を強く打ちつけた影響もあり、試合したことなどの記憶は一切飛んでいるという。万全を期して今日20日に再検査を行う予定だという。
試合後、ここまで「この試合だけに集中したい」と“今後”について沈黙を守っていたノーマンは、次なるプランを口にした。
選択肢としてはすでにオファーを受けているWBA&IBF同級王者のジャロン・エニス(米国)、7月16日に米ラスベガスで、WBC同級王者のマリオ・バリオス(米国)が元6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(フィリピン)の挑戦を受ける世界戦の勝者の二つ。ノーマンは「エニスが一番現実味があるが、バリオスとパッキャオの勝者にも興味がある。WBCのベルトが欲しい。殿堂入りの選手が必ずWBCのベルトを持っているからね」と明かす。
ノーマンが異国の地で示したのは、この階級でテレンス・クロフォード(米国)に続いて4団体統一王者になれるという可能性である。そうなると24歳のノーマンが、「また日本に戻ってきて試合をしたい」と望んでも、もう手を出せる存在ではなくなる。
再起後に佐々木はモチベーションを持ちにくくなるが、まだ23歳。
ノーマンは佐々木を「未来のチャンピオンの可能性がある」と称え、こうエールを送った。
「彼が日本のトップにいる理由はわかった。時間をかけて彼を疲れさせ、KOするべき時がきたが、1ラウンドに2度ダウンを取っても立ち上がってきた。それが彼の強さだ。人気がある選手。また(世界に)挑戦できればいいね」
すべてが社交辞令ではない。時期早尚の世界戦だったのかもしれないが佐々木が示した誇りある勇敢なファイトが王者にそう言わせた。佐々木は自らの可能性をあきらめる必要はない。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)