
「秋広の活躍とリチャードの苦戦はわかっていた。育成姿勢と指導者の能力の差だ」なぜ交流戦で巨人とソフトバンクの電撃トレードは明暗が分かれたのか…巨人大物OBがぶった斬る
全日程を終了した交流戦ではセパの格差が顕著に出たが、交換トレードで移籍した巨人の砂川リチャード(26)とソフトバンクの秋広優人(22)も明暗が分かれた。リチャードは13日に2軍落ち、一方の秋広は横浜DeNAとの3連戦で3試合連続で打点をマークするなど存在感を示した。なぜ2人に格差が生まれたのか。巨人OBでヤクルト、西武で監督として日本一になっている広岡達朗氏(93)が厳しくぶった斬った。
秋広は3試合連続ヒーローでリチャードは2軍落ち
全日程が終了した交流戦は、ソフトバンクが優勝、パ・リーグが1位から6位までを独占してここ数年は縮まっていたセパの格差が再び顕著になった。その中で明暗が分かれたのが5月12日の1対2の電撃トレードでユニホームが変わった巨人リチャードとソフトバンク秋広の2人だ。
リチャードは、トレード翌日の13日の広島戦に「7番・三塁」でスタメン抜擢され、いきなり第2打席に左腕の森から本塁打を放つ衝撃デビューを飾ったものの、その後、相手バッテリーの対策に苦戦して、打率は1割を切るまでに急降下。今月12日には古巣のソフトバンク戦で3試合ぶりとなる「8番・三塁」でスタメン出場したが、6回にヒットエンドランのサインを見落とす、ボーンヘッドを犯して、阿部監督が激怒。16打席ノーヒットのまま2軍落ちを命じられた。この時点で18試合に出場して45打席に立ち、打率.095(42打数4安打)、2本塁打、4打点、19三振となっている。
一方、秋広のソフトバンクデビューはリチャードよりも遅い5月15日の西武戦で「6番・レフト」でスタメン出場し、こちらも初戦で移籍後初安打をマーク。その後25日のオリックス戦まで、8試合連続でスタメン起用されて、23打数6安打、打率.261、0本塁打、0打点、出塁率.370の成績で、近藤健介の戦列復帰に伴い、27日の日ハム戦からスタメンを外れるようになった。だが、存在感を示したのが今月13日からの横浜DeNAとの3連戦だ。
「6番・レフト」で出場した第1戦は、4回二死二、三塁の先制機にケイのツーシームをレフト前へ運ぶ2点タイムリー。この移籍後初打点が決勝打となり、お立ち台に呼ばれ、第2戦では、2回二死から大貫の浮いたスライダーを見逃さずにライトスタンドへ先制の移籍後第1号。2023年7月23日のDeNA戦以来、約2年ぶりのアーチが決勝打となり、再びヒーローに指名された。さらに第3戦も1点を追う8回無死二、三塁でウィックからセンター前へ価値ある同点タイムリー。続く栗原が勝ち越しの犠飛を決めてゲームをひっくり返し、チームは同一カード3連勝を決めたのだ。秋広は、ここまで21試合で打率.220(50打数11安打)、1本塁打、4打点、16三振の数字を残している。
広岡氏は両者の明暗を予想していたという。
「私は秋広は巨人時代から我慢して使えとずっと言ってきた。もともと能力のある選手。ソフトバンクでの活躍は当たり前だ。巨人は、結果が出なければ、すぐにスタメンから外した。代打や途中出場で選手は育たない。特に秋広の起用に関しては阿部の好き嫌いが出ていたようにも見える。秋広みたいな手足の長い大型の選手を育てるには時間がかかる。指導者に根気と決意がいるんだ。そこが秋広に限らず巨人の問題点。今回のトレードでは巨人とソフトバンクの育成への取り組む姿勢と指導者の能力の差が如実に出ている。聞くところによると、ソフトバンクの監督、コーチは、秋広に小さくまとまるのではなく、強く振ることを教えているというではないか。秋広の長所を伸ばして自信をつけさせているのだろう。それを巨人はなぜ徹底できなかったのか」
秋広の成功をこう評価した。
一方でリチャードには厳しい見解を述べた。
「リチャードはボール球を振ることが致命的だ。よければもっと前からソフトバンクで結果を出しているだろう。2軍では打つが1軍では打てないという典型的な選手。巨人は岡本の怪我で焦って補強に動いたのかもしれないが、リチャードの苦戦はわかっていた。そういう意味で、このトレードは秋広と大江を出した巨人の方が最初から損をするつり合いのとれていないトレードだった。リチャードの飛ばす能力は、秋広と遜色はないが、このままでは厳しいと思う。まして巨人にこのリチャードを変えることのできる指導者はいない。阿部では無理だろう」
ちなみにこのトレードでソフトバンクへ移籍した変則左腕の大江は、ここまで5試合に登板して失点0。貴重な中継ぎ左腕となっている。
広岡氏は両球団の違いをこう解説した。
「巨人もソフトバンクも金をかけてFAでヨソから大物を引っ張ってきて、外国人補強に頼る点ではチームの補強戦略は似ている。それはどちらも評価できないが、育成の部分では4軍までありシステムが構築されているソフトバンクが巨人より上。阪神の大竹にしろ、日ハムの水谷にしろ、出番のない選手が、他球団で活躍できているのはそういうことだ」
ただ広岡氏はこうも提言する。
「私は現役ドラフトには大賛成なんだが、シーズン中も、こういう埋もれている選手の環境を変えてやるトレードはどんどんやるべきだ」
トレードの成否の結論はこの短期間で出るものではない。
球界大御所の見解が「間違っていた」と言わせるだけの逆襲をリチャードには期待したいし、交流戦で柳町が首位打者を獲得してブレイク、近藤らの復帰でスタメンでの出番が少なくなってきた秋広もさらなるアピールが必要だろう。リーグ戦は27日から再開する。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)