
「最後にそういう展開がくると感じた」なぜ阪神は巨人“ライマル神話”の崩壊に成功したのか…代走植田の揺さぶりとサヨナラヒーロー豊田に代打を出さなかった藤川監督の勝負師的采配
阪神が3日、甲子園で今季3度目のサヨナラ劇で巨人を下して、伝統の一戦を3タテして5連勝を飾った。巨人の阿部慎之助監督(46)は2-2の同点で迎えた9回に開幕31戦連続無失点のライデル・マルティネス(28)を送り込んだが、代走の植田海(29)が足で揺さぶり無死満塁とし、最後は豊田寛(28)がセンターへサヨナラ犠飛を放った。藤川球児監督(44)の勝負師的な采配が光り、2位広島とは5ゲーム差で、ガッチリと首位をキープした。
阿部監督は同点なのに9回にマルティネスを投入
“ライマル神話”を崩壊させた。
2-2で迎えた9回だ。阿部監督は3番の森下からクリーンナップを迎えるこの回を守りきることが勝負だと読んだのだろう。先攻でセ―ブシチュエーションではなかったが、開幕から31試合連続無失点のセ・リーグタイ記録を作っていた“絶対守護神”のマルティネスを新記録のかかるマウンドに送り込んだ。だが、先頭の森下が、追い込まれながらも、甘く入った155キロのストレートをセンター前へ弾き返した。
森下は昨年7月28日の中日戦でも延長11回にマルティネスからサヨナラヒットを放っている。手も足も出ないという劣等感はなかったのかもしれない。そしてここで藤川監督が動いた。延長に入れば、最後にもう一度、森下に打席が回ってくる可能性もあったが、代走植田を送る勝負手を打ってきた。阿部監督が勝負をかけ、藤川監督も堂々と受けて立った。
「自分も同じポジションをやっていましたから。こういった場面で、同点のしかも自チームのジャイアンツさんからすれば、選手の苦しそうなコンディションもあったところで。僕が出ていった時を連想しても、そんなに簡単ではない」
現役時代に日米通算245セーブをマークした“火の玉ストッパー”だからこそわかる同点で出てくる守護神の難しい心理。そこにつけこんだ。しかも、マルティネスは決してクイックは得意ではなく、走者を背負うと神経質にもなる。
その采配はズバリだ。打席に佐藤を迎えて、マルティネスは、植田の足を警戒するあまり、まず1球、様子をうかがう牽制球。そして続けて今度は速い牽制球を投げたが、頭からベースに戻った植田に重なったのか、中山がこれを後逸し、ファウルグラウンドにボールが転々とする間に植田が難なく二塁へ進んだのだ。阿部監督は佐藤を申告敬遠して塁を詰めた。
巨人戦に滅法強く、この日も、すでに2安打を放っていた大山が、ボールワンから高めに浮いたストレートをコンパクトに捉えた。強い打球はワンバウンドでマルティネスの左膝付近に当たって、一、二塁間方向へ大きくはねた。中山がそれを飛び込んで必死でストップ。三塁を回っていたサヨナラ走者の植田は、あわててベースに戻った。
そして無死満塁で豊田である。巨人の先発横川に対して第1打席、第2打席と連続でゲッツーでチャンスを潰し、第3打席は見逃しの三振。代打が考えられるケースだった。ベンチには切り札の糸原も残っていた。だが、藤川監督は動かなかった。
「ゲームの感じからして、最後、そういう展開がくるんじゃないかと。豊田がホームで刺殺したところから、このままいこうと思った。野球って流れがあると感じた」
藤川監督の勝負師としての勘が働いたのだ。
1-2で迎えた5回一死一、二塁から坂本のレフト前ヒットを豊田はワンバウンドでバックホーム。泉口を本塁でアウトにしていた。SNSでは、「泉口のホームベースへのタッチの方が早かったのでは?」との声もあがるクロスプレーだったが、阿部監督はなぜかリクエストを求めなかった。藤川監督はその守備での豊田の貢献に何かを感じたのだろう。