
え?一体なぜ?井上尚弥が過去最強挑戦者アフマダリエフとの9.14名古屋決戦で「判定決着でいい」とKO宣言を封印した理由とは?ダウンの教訓とドネア、フルトン、ネリより「一段上の実力」
そしてもうひとつの理由がカルデナス戦の2ラウンドに左フックを浴びてダウンを喫した教訓だ。
昨年5月のルイス・ネリ(メキシコ)戦でも1ラウンドにまさかのダウンを経験。カルデナスは右構えでネリはサウスポー。同じカウンターの左フックでも、種類もタイミングも違ったが、カルデナスは、「打ち終わりを狙っていた。ガードが下がるのがわかっていた」との作戦を試合後に明かしている。
その作戦を練ったのが、ジョエル・ディアス氏。元2階級制覇王者であのマニー・パッキャオ(フィリピン)に土をつけて、3度激戦を戦うことになるティモシー・ブラッドリー・ジュニア(米国)を育てた名トレーナーが、実は、アフマダリエフの参謀なのだ。つまりカルデナスに負けないフィジカルを持つアフマダリエフが、ブロックを固めて、プレスをかけながら、井上の打ち終わりに、またカウンターの左フックを狙ってくる戦略を取ってくることが十分に考えられる。
会見で井上にその点を突っ込むと「なんかパンチをもらいましたっけ?」とジョークで返した。
――ダウンしていましたよ。
「あの一発は確かにもらいました。ですがあの試合が終わるまでほぼほぼ(それ以外)一発もパンチをもらっていない。過信、油断から生まれたのがあのシーン。相手がそういう戦略を立ててきたとしても、9月14日の井上尚弥は少し違うぞ。本気を出させてもらいます」
なぜダウンを喫したかの原因も究明した。
「打ち急ぎ。あの2つ(のダウン)は打ち気になっちゃっている。早いラウンドで、体が温まっていなかったり、相手のパンチを出す軌道やクセを読み切る前にもらっているパンチ。しっかりと自分の中で情報を集める作業が必要。まあ見ててくださいよ」
KOへの欲が警戒心を忘れさせていた。
アフマダリエフ戦ではその教訓を生かすためKO宣言を封印したのである。
ディアストレーナーの存在は「陣営としては少し嫌」としながらも「ただ選手も違う。(アフマダリエフは)サウスポー。色んな面ですべてが変わってくる。警戒心を持ちながらトレーニングを進めていける。より研究しながら、向こうが思っている井上尚弥ではないよ、と当日そう思わせるボクシングをしていきたい」と続けた。
大橋会長も「判定勝利狙い」がチーム井上の中で話し合った上での結論であることを明かし「どういう戦法でくるかだいたいわかる。KOだけがボクシングじゃない。結果、そういう流れでいくとKOになったりする。判定勝ちで全然いい」と説明した。
井上が、本来のスピードとバックステップを生かした“勝つボクシング”を徹底すれば、アフマダリエフがいかに最強とはいえ、負ける要素はないだろう。ただ井上にはファンを喜ばせたいというエンターテイメント性と、倒したいという本能がある。その邪念をどう抑えるか。
ただ、ここまで「逃げている」などと、散々挑発をされてきた場外戦については「SNSを通じてそういう挑発があったのかもしれないが、チェックができていなくて、何を言っているのかわかんない」と相手にしなかった。
すでに冷静さを失わないメンタルの持ちようを心掛けているのだ。