
「宝クジが当たれば」リチャード同点3号3ランなどで5点差を逆転した巨人のポテンシャルと伊原のスペシャル救援起用が裏目に出た阪神の“余裕”という名の危険な隙
7月に入ってチーム本塁打はここまで6本だった。岡本が戦線離脱して打線に迫力に欠ける中、阿部監督は、ムードを変える本塁打を打てるポテンシャルを持ったリチャードにかけたのである。「ここしかない」という飛距離の出るツボにはまった一発だったが、阿部監督の采配はズバリ的中した。
5-5の9回に阿部監督は定石通り守護神のマルティネスを投入した。マルティネスは、中野、森下、佐藤を三者連続の空振りの三振に仕留め流れを呼び寄せた。そしてその裏だ。オールスターブレイク前のスペシャル救援起用された伊原は回跨ぎの2イニング目。ファウルを右膝に受けた甲斐に代わって途中出場していた岸田が、一死から右中間を破る二塁打で出塁した。代打坂本が四球を選び、トップの丸は、レフトフライに倒れたものの、佐々木が際どいコースを見極め、フルカウントからファウルで3球粘り、四球を選んだ。この四球がサヨナラへの分水嶺だった。
二死満塁として「みんながつないでくれたので何とか打ちたい、食らいつくだけ」の思いで打席で入った吉川がセンター前へサヨナラ打を放ち、感動的な逆転劇を演出したのである。
「みんながつないでつないでよく追いついたんですけどね。そこからあと1本が出ないのが現実ですけど、なんとかそのあとみんなが頑張って勝ちにつながった」
阿部監督が苦しい胸中を吐露した。
阪神は勝ちゲームを落とした。藤川監督は連投していた湯浅、及川をベンチから外して、登板間隔の空いていた先発の伊原をスペシャル救援起用した。シーズンの序盤は、中継ぎからスタートし、立ち上がりも悪くなく、制球のいい伊原に救援の適性はあるが、結果的にその秘策は裏目に出た。
現役時代にタイトル獲得経験のある評論家の一人は、貯金「18」で独走状態にある阪神の余裕が生んだ隙をこう指摘した。
「ゲーム差を考えれば、どうってことのない1敗ではある。だが、藤川監督が、凡事徹底をチームスローガンとしているのであれば、それができていない隙を見せた敗戦だった。まず勝ちゲームを落としたこと。そして7回の大山の守備のミス。あそこは点差を考えると、1点を防ぐバックホームよりも、アウトカウントを増やす二塁での併殺を狙うべきところだった。悪送球をしたことよりも判断ミスが痛かった」