
「準備不足だったとしか言いようがない」世陸100mでサニブラウンも予選敗退…なぜ日本勢は“全滅”したのか…9秒台でバカ騒ぎしているようでは世界と戦えない
股関節のケガは「7月の第3週頃には完治した」そうで、その後はコーチが滞在していた中国・北京ナショナルトレーニングセンターで約1か月、ハードなトレーニングを行ったという。
「1か月いましたけど、休みは3日ぐらい。めちゃめちゃ詰めて練習をしてきたんです。今季は全体的にひどい状態だったので、(体力を)戻しながら世界陸上に合わせていくという練習方法でした。でも付け焼刃でしかなかったですね。世界は物凄くレベルが高くなっているので、帳尻合わせでは世界のやつらと戦えない。練習で調子や数字が良かったとしても、試合は別の話。今季はいい出力で走る試合がほとんどなかったので、準備不足だったとしか言いようがないかなと思っています」
サニブラウンは万全な状態ではなく、今大会にピーキングを合わせることができなかった。そして日本選手権で予選落ちしたサニブラウンの期限内タイム(9秒96)を超える選手が現れなかったのも日本が惨敗した理由のひとつになるだろう。
東京世界陸上の参加標準記録は10秒00。
日本人ではサニブラウン、桐生、守、清水空跳(星稜高)、栁田大輝(東洋大)の5人が突破した。タイムだけを考えれば、日本のスプリントはかつてないレベルに到達している。しかし、それは世界も同様だ。
世界記録はウサイン・ボルト(ジャマイカ)が2009年に打ち立てた9秒58(+0.9)。世界的に著名なランニング研究者とプーマのイノベーションチームが実施した研究では、もしボルトがプーマの最先端トラックスパイクを着用していたなら、現行の世界記録より0.16秒速い「9秒42」で走れていたと推定した。
それくらい近年のスパイクは進化している。選手のタイムが上昇するは当然の流れだ。
桐生が日本人初の9秒台をマークした2017年シーズンは10秒00以内をマークした選手は世界で20人しかいなかった。今季はというと現時点で45人もいる。ファイナルを狙うと息巻いていた桐生だが、今季の世界リストは34位タイ。その野望は少し無謀だったといえるかもしれない。
これはメディアが必要以上に持ち上げていることも原因といえるだろう。
日本選手権では桐生の5年ぶり優勝を称える記事が大半で、2か月後の本番で決勝進出を狙うには「タイムが悪い」と強く批判する記事はなかったからだ。
今大会と同じ会場で行われた日本選手権の優勝タイムは10秒23(+0.4)で、パリ五輪の決勝進出ラインは9秒93。約2カ月で0秒20をどのように短縮するつもりだったのだろうか。
〝裸の王様〟とは言わないが、男子100mで日本人が世界大会でメダルを本気で狙うのであれば、選手、日本陸連、メディアが〝現実〟から目を背けてはいけない。9秒台でバカ騒ぎしているようでは世界と戦えないのは明らかだからだ。
東京2025世界陸上財団は昨日のイブニングセッションの入場者(速報値)を5万6819人と発表した。チケット販売枚数も50万枚を突破したという。
男子100mは無念の結果に終わったが、日本は男子4×100mリレーでも「メダル」を狙える位置にいる。日本国民が注目するなかで、〝ハッピーエンド〟を期待したい。
(文責・酒井政人/スポーツライター)