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天心は構えからして普通のボクサーとは違う(写真・山口裕朗)
天心は構えからして普通のボクサーとは違う(写真・山口裕朗)

世界初挑戦の那須川天心は元WBA王者の井上拓真に勝てるのか…公開スパーから判明した天心の「狙い」と「戦略」を読み解く

 中谷氏はさらにこう続けた。
「あらゆるパターンを想定しているのでしょうが、ジャブの差し合いで優位に立ちペースをつかみ打ち合いはせず、徹底したアウトボクシングをする気ですよ。ここまではアンチに色んなことを言われ、パンチがないともSNSで言われていたので、余計な感情が試合に出ていたと思うんです。まあ性格もあってモロニー戦では打ち合いをしたのかもしれませんが、今回はそういうものを排除して勝ちに徹するんだという姿勢が見てとれました。狙っているのはサウスポーの利点を生かして内側からの飛びこんでのワンツー。左ボデイにいいのを当てていましたが、拓真選手はディフェンス能力が高いので、効かせなくとも上下にパンチを散らすことは必須。そこを意識しているのでしょう。アウトボクシングでペースをつかみ、拓真選手が出てきたら、足を使って逃げ切る。その合間を見てカウンターを狙う戦略ですよ」
 中谷氏は、スパーにメキシカンを4人も呼んだ裏には「拓真選手の武器のひとつが接近戦でのアッパー。メキシカンはアッパーが上手いんでその中の一人にそういう達人がいるんじゃないですか?」と推察した。
 おそらく井上陣営はそれらの戦略を公開スパーで確認したのだろう。
 では、その天心の戦略が拓真に通用するのか。
 中谷氏は、「どっちが勝ってもおかしくない勝負。ただ元世界王者の肩書を持つ拓真選手の方が背負うものや考えるものが多くて、まして1年ぶりの再起戦が即ビッグマッチという状況に置かれて序盤に慎重にボクシングをすると思うんです。そうなると天心のペース。焦って前に出ると、ますます天心のペースとなり、最終的に判定で天心が勝つと見ています」と大胆な予想を明かした。
 帝拳陣営も中谷氏と同様に拓真が1ラウンドから積極的に前に出てくるような勝負はしてこないと踏んでいるようだが、筆者は拓真がガラっと、スタイルを変えてくると見ている。
 北野トレーナーは「拓真のボクシングを作りあげた。天心に合わすのではなく。後は対応力」という話をしていた。
 昨年10月のWBA世界同級世界戦で堤聖也(角海老宝石)に判定負けした試合では、堤のプレスに押されて下がり、カウンターボクシングに徹したことでペースをつかめなかった。その反省が今回は必ず生かされるだろう。そうなると、いきなりインファイトを仕掛ける可能性もあるのではないか。
 天心は発表会見で「井上拓真選手はボクシングそのもの」という話をしていた。改めて真意を聞くと「ボクシング界と言えば、井上兄弟がすぐ出てくる。その概念を壊していきたい。そういうものと戦っていきたい」という壮大な話をした。
「僕が勝たなきゃボクシング界が面白くならない」とも豪語したが、一方で、負けを受け入れる覚悟もできていると言う
「それ(負けを)受け入れる器になってきた。昔はそうは思わなかった。負けたら終わり、死ぬつもりで戦っていたがそうじゃない。負けても人生は続く。それをどう受け止めるか、どう皆さんに見せていくか。人生でずっと勝っている人はいない。どこかで負けている。僕も日々のスパー、トレーニングで負けている。そこで試行錯誤しながら強くなっていく。負ける気は一切ないが、格闘技の強さだけでは意味がない。人としてどう強くなるかをみんなに見せたい。天心という人生実験。面白おかしく。こんな奴がいるんだ?オレもできるんじゃないかと思って見てもらえればいい」
 2人の壮絶な思いと人生がぶつかり合う…運命のゴングは10日後だ。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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