幻の全日本新人王MVP…“土佐のKOキング”市原涼が後楽園に降臨!
プロボクシングの「全日本新人王決定戦」(20日・後楽園)では未来の世界王者候補が躍動した。その一人がスーパーバンタム級を制して敢闘賞に選ばれたスーパーバンタム級の市原涼(23、黒潮)だ。2ラウンド2分10秒のTKO勝利。今回出場した24選手でナンバーワンのハードパンチャーで戦績を8戦8勝8KOとした。陣営では来年ユースタイトル挑戦を目論んでいる。
鮮烈の左フック
南国土佐のKOキングだ。
その右は無言の圧力を発していた。対戦相手の八谷洋平(RK蒲田)は、36歳の遅咲きの新人王チャレンジ。サウスポーの八谷の警戒心が強く、市原は、なかなか突破口を開けられなかった。
2ラウンドだ。プレスを強めて距離を詰める。残り1分になろうとするところで、浅いが2発右ストレートがヒットした。そしてコーナーに追い込むと、また右ストレートが顔面をとらえて、八谷が苦し紛れの左を返そうとしたタイミングで左フックが炸裂した。ガクンと膝を落としてダウンすると柳光和博会長がタオルを投げ込んだ。
「狙っていません。サウスポーに右は当たりやすいけれど、どうしても強く殴ろうとして、大振りになって読まれやすい。その右の打ち終わりを狙ってくるのがわかっていたので、そこに左フックを合わせた。手ごたえは、めちゃくちゃありました」
市原は小川竜司会長と抱擁。
そしてリング上での勝利者インタビューでは、「高知県からもわざわざ飛行機で応援してくれ…」とまで言って絶句した。
涙で言葉が続かない。
高知からは両親、2人の姉、そして交際中の彼女まで約40人、東京や大阪からも含めると総勢60人の応援団が駆けつけてくれていた。
「応援してくれた人がいるし、プレッシャーもあった。勝ててホッとしたのもありました」
涙もろい。
これで8戦8勝8KOでKO率100%。左フックで倒したのは始めてだという。
今大会の最優秀選手賞(MVP)には、2ラウンドにダウンを奪われながらも、劇的な逆転TKO勝利した高校3年生の出畑力太郎(マナベ)が選ばれた。だが、MVPの得票数は、市原と出畑が同数だった。他の敢闘賞、技能賞の得票数の差で出畑がMVPとなったが、市原は幻のMVPだったのだ。それほど彼の一発の魅力を秘めた戦いにはインパクトがあった。
アマ経験はない。
中学から高校1年までハンドボールをしていたが1年で辞め、高知北高校の通信制を卒業しても、定職にもつかずふらふらしていた。
「夜中までゲームばっかやっていました」。ゲームオタク。「フォートナイト」というゲームに夢中だった。
それが、現場仕事のバイト先で黒潮ジムの新人王第1号である福永宇宙と出会い、「遊びに来てみないか」とジムへ誘われた。
「やりたいことがなかった。やりたいことを探しているときに宇宙君に出会った。タイミングが良かったんです。感謝しています」

