なぜ箱根駅伝往路V青学大の黒田朝日が“シン・山の神”を11年ぶりに襲名できたのか…他チーム監督が警戒していた起用法と“3代目”神野大地が語っていた予感
傾斜が緩やかな12~13kmを早大・工藤慎作(3年)が3分23秒でカバーした一方で、黒田は3分04秒で走破。わずか1㎞で19秒も詰め寄った。13.6㎞付近で中大を抜いて2位に上がると、前回区間2位の「山の名探偵」の背中に近づいていく。芦之湯(15.8㎞)で15秒差まで迫り、19.2㎞付近で逆転。往路Vのゴールに飛び込んだ。
黒田のタイムは1時間7分16秒。前回、青学大・若林宏樹がマークした1時間9分11秒の区間記録を一気に1分55秒も更新した。区間2位の斎藤に2分12秒、区間10位の山梨学大・弓削征慶(4年)には4分44秒という大差をつけた。
「1代、2代、3代、4代じゃなくて、シン・山の神の誕生です! 1時間7分50秒を目標にしていましたが、それを35秒程度上まわることができて、本当に凄いキャプテンですね。本当に凄かった。感動しました!」と原監督は大興奮。黒田も「最後の方は無我夢中で全然記憶もないんですけど、なんとか往路優勝できてホッとしています。自分の実力以上のものを発揮できたと思っています。ここは声を大にして言いたい。僕がシン・山の神です!」と胸を張った。
「シン・山の神」の〝シン〟には「新しい」という意味だけでなく、「真の」という意味があるようだ。
過去「山の神」と呼ばれた選手は3人。順大・今井正人、東洋大・柏原竜二、青学大・神野大地だ。しかし、2015年の91回大会の神野以降「山の神」と崇められるクライマーは出現しなかった。
上記3人は5区が最長区間だった時代(06~16年)に活躍したが、2017年に小田原中継所が鈴廣前に戻り、5区の区間距離は20.8㎞となった。約2.5㎞短縮されたことで5区のウエイトが下がり、「山の神」が誕生しづらい状況になっていたのだ。
5区の過去最速タイムは神野が大学3年時(15年)に樹立した1時間16分15秒。現コースに換算すると「1時間8分45秒前後」となる。
このタイムに近づくことが「山の神」の目安になると言われていたが、昨年、神野はこんな〝予感〟を語っていた。
「次に『山の神』と呼ばれるような選手は一気に67分台までいくんじゃないでしょうか。そういう選手が出てきたときに圧倒的な差がついて、4代目が誕生すると思いますね」
神野の言葉通り、「シン・山の神」は区間記録を大幅更新。過去最速タイムも1分半近く上回ったことになる。黒田は誰もが驚く記録と、強烈なインパクトを残した。
大半の選手は腕時計で通過タイムを確認しながらレースを進めていくが、黒田は腕時計をつけずに自分の〝感覚〟でペースを刻む選手。区間記録を強く意識していなかったからこそ、これだけのビッグレコードが誕生したのかもしれない。
絶対エースで往路をトップで折り返すことに成功した青学大。同校は前回大会まで往路を7度制しているが、そのすべてで総合優勝まで突っ走っている。一度トップに立ってしまえば〝掛け算〟の駅伝で圧倒的な強さを発揮してきた。
復路の区間賞は、過去11年間で23度。区間賞獲得率は驚異の41.8%にのぼる。1年生が登録されている6区終了時で青学大がトップに立っていれば、そのまま逃げ切る可能性は高いといえるかもしれないが、今回は強力なライバルがいる。
青学大を1分36秒差の3位で追いかける中大だ。登録選手上位10人の平均タイムは史上初の27分台。選手層は厚く、2年連続で区間賞(7区、1区)を獲得している主将・吉居駿恭(4年)を補欠に温存している。順当なら〝ジョーカー〟を7区に切ってくるだろう。
青学大の3連覇となるV9か、中大の30年ぶり15回目の総合優勝か。復路も大激戦が待っている。
(文責・酒井政人/スポーツライター)

